『映画 五等分の花嫁』感想:エモーショナルに飾る有終の美

(C)春場ねぎ・講談社/映画「五等分の花嫁」製作委員会

ファンに向けた見事なフィナーレ。

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作品情報

2019年に開始したアニメ『五等分の花嫁』シリーズの最新作にして、初の劇場用作品。『週刊少年マガジン』に連載された同名漫画を原作とし、終盤の学園祭編を中心に、物語の完結までを描く。アニメーション制作は、バイブリーアニメーションスタジオ。

原作: 春場ねぎ『五等分の花嫁』
出演: 松岡禎丞 / 花澤香菜 / 竹達彩奈 / 伊藤美来 / 佐倉綾音 / 水瀬いのり ほか
監督: 神保昌登
脚本: 大知慶一郎
公開: 2022/05/20
上映時間: 136分

あらすじ

「落第寸前」「勉強嫌い」の美少女五つ子を、アルバイト家庭教師として「卒業」まで導くことになった風太郎。
女優に専念するため休学することになった一花の勉強を見ながら、「学園祭」の準備に励む風太郎と、後悔のない「学園祭」にしようといつも以上に張り切る四葉。
目まぐるしい日々が過ぎ、気づけば「学園祭」前日。諦めずに励もうとする五月の姿に後押しされ、風太郎は二乃の想いや三玖の決意、そして一花・四葉・五月に対する気持ちの答えを探す。
それぞれが想いを抱える中、ついに始まった高校生活最後のイベント「学園祭」初日。 『学園祭初日15時に教室に来てくれ。』
教室に集まった五つ子は、風太郎からある想いを告げられる──

映画「五等分の花嫁」本予告動画 – YouTubeより引用
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レビュー

このレビューは『映画 五等分の花嫁』をはじめとした、漫画およびアニメ『五等分の花嫁』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

秀逸な設定とキャラクター

2017年から『週刊少年マガジン』に連載された人気ラブコメ漫画『五等分の花嫁』。2020年に完結を迎え、全14巻発売されている単行本の累計発行部数は1600万部を超えています。

貧しい生活を送る高校生・上杉風太郎は、家庭教師のアルバイトを引き受ける。その生徒は、同じ高校に転校してきた五つ子姉妹だった。勉強嫌いな彼女たちは風太郎と対立していたが、ともに時間を過ごすにつれて、彼に対して恋心を抱いていく。

本題に入る前に、まず原作について触れておく必要があります。というのも、元となった漫画の設定やキャラクターが素晴らしい。お約束的な「少年向け」の展開や演出が多くあるこの作品は、昔から脈々と続くハーレムものの王道にして、最新版と言えます。

この『五等分の花嫁』が他のラブコメと一線を画しているのが、主人公とメインヒロインの結婚というゴールが明確に設定されている点。タイトルにある通り原作第1話の時点で、五つ子のうちの誰か一人と風太郎が結婚する未来が明示されています。

ただし五つ子のため、顔のパーツなどの見た目は一緒。なので結婚相手の正体は、終盤まで読者には分かりません。果たして主人公と結ばれるメインヒロインは誰なのか。こうしたミステリー要素を感じられるストーリーが、この漫画の特徴の一つです。

そして何といっても、五つ子のヒロインがかわいく魅力的です。加えて5人が上手くキャラ分けされているので、5人のうち誰かしら、推したいと思えるキャラができるでしょう。ずっと見続けられるほどに楽しい姉妹同士の掛け合いは、話が進むにつれ、物語の大きな推進力になっていきます。

  • 中野一花:長女。ショートカットとピアスがトレードマーク。面倒見の良いお姉さんだが、家の中では面倒くさがり。役者になりたい夢を抱いている。
  • 中野二乃:次女。髪の両サイドを結ぶ黒いリボンがトレードマーク。ファッションセンスがあり、料理も上手。誰よりも姉妹想いなツンデレ。
  • 中野三玖:三女。首にかけているヘッドフォンがトレードマーク。口数が少なく落ち着いた、クールな性格。戦国武将が好き。
  • 中野四葉:四女。大きな緑のリボンがトレードマーク。元気があり人懐っこい反面、お人好しすぎる面もある。勉強の意欲は姉妹の中で一番だが、成績は最下位。
  • 中野五月:五女。星形の髪飾りと頭頂部のアホ毛がトレードマーク。真面目で意地っ張りな努力家。食べることが好き。

アニメ化で魅力を増すヒロインたち

常人には見分けがつかない(設定の)五つ子姉妹。アニメ化前に作られたCMでは、複数キャラの演じ分けの経験を持つ佐倉綾音さんが一人で声をあてており、5人が見事に演じ分けられていました。

実際テレビシリーズで起用されたのは、佐倉さんを含む5人の豪華声優陣。漫画では微細な表情の変化や、身に着けているものの違いで描き分けられていました。そこに個々の声が吹き込まれたことで、各ヒロインの個性がより明確になり、彼女たちの魅力が最大限引き出されたように思われます。

作中に何度も出てくるのが、五つ子が別の姉妹になりきって、ピンチを乗り切ろうとする展開。ある時は、自分たちの遅刻をごまかすため。またある時は、その人が言いにくいことを代わりに伝えるため。彼女たちは様々な目的で変装を駆使します。

そういったシーンの際、他の姉妹の声に寄せられる声優陣の高い演技力にはただただ驚くばかりでした。実力者ぞろいのキャスティングを実感するとともに、アニメ化の意義を感じられる瞬間です。

また漫画では、五つ子の気持ちがストレートに言葉に表れている場面は、見開きのコマで大々的に描かれることが多いです。その特徴はアニメにも引き継がれており、その場面にあたるカットは他より力の入った作画で描かれていました。その絵を時間をとって映すため、どのシーンも印象に残ります。

2019年に放送されたテレビシリーズ第1期は、コミックスでは1~4巻にあたります。元々あるエピソードをほとんどカットしておらず、一言一句逃さないレベルで忠実にアニメ化しました。恋愛ものというより、5人それぞれのキャラクター紹介の色合いが強いシーズンです。

コミックス5~10巻までを映像化した第2期『五等分の花嫁∬』(2021)では、前作から風太郎と各ヒロインの関係性が進展し、恋愛模様は複雑になっていきます。制作会社の変更も相まって第1期よりも作画が安定しており、五つ子がさらに可愛く描かれているように思いました。

放送時期には既に原作が完結しているためか、明らかに作品全体のゴールを意識したストーリー構成になっていました。サブキャラに関する話がカットされていたり、四葉の重要エピソードである勤労感謝ツアー回が後ろ倒しになっていたりしています。

変わりゆく登場人物の感情と、彼女たちを取り巻く環境の変化からは、いまが永遠に続くとは限らない「青春の一過性」がヒシヒシと伝わってきます。そしてそれは今作の舞台である、高校生活最後の学園祭へと繋がっていきます。

原作に忠実なアニメ化

さて今回の劇場版は、高校3年の夏休みが終わり、学園祭の準備が始まるところから物語が始まる。五つ子とともに一年を過ごし、彼女たちの気持ちに向き合った風太郎。学園祭初日になり、五つ子を呼び集めた彼は「俺は お前たち五人が好きだ。」「だが答えを出さなければいけないと思う。」と、自身の決意を打ち明ける。

本作はコミックス11~14巻を映像化しています。ただし11巻の内容については、一花が休学を決めるまでの流れをはじめ、四葉の過去回想を除いたほとんどのエピソードがカット。特報から予想されていたプール回は、オープニング映像として使われるのみでした。

漫画など原作のあるテレビアニメは近年、原作の1エピソードを新たに映像化し、劇場版として公開する傾向にあります。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020)『劇場版 呪術廻戦0』(2021)が、その代表例です。

しかし「〇〇編」といった区切りがある上述した二作とは異なり、完全な「地続き」の話である『映画 五等分の花嫁』。テレビシリーズ第2期の続きから、物語の完結までが語られます。さらに劇中で、あらすじの説明は無いため、一見さんお断り感が強いのは否めません。

今作の大きな特徴が、「最後の祭りが〇〇の場合」と題して、五つ子一人ひとりの視点に分けてストーリーを描いている点。単に時系列に沿って描くのではなく、同じ学園祭を5人分繰り返すことで、段階的に話の全貌が明らかになる中盤はサスペンス色があります。

この構成自体は、原作と全く同じ。とはいえ原作では、期末試験編「最後の試験が〇〇の場合」にて、既に一度同じ構成がとられています。このエピソードがアニメ化された際は、時系列順に話が整理され、一話分にまとめられていました。

期末試験編は一人分のエピソードがそれほど長くないので、話全体がスッキリ見えるこの改変は良い方に働いているように感じました。

対照的に今回は、原作に忠実です。というのも前の人のエピソードに、後の人のエピソードの伏線が張られている学園祭編。単に時系列でまとめると、おそらくその伏線が機能しなくなってしまいます。それを踏まえると、あえて原作を踏襲した手法なのも頷けます。

この構成に代表されるように、原作に非常に忠実にアニメ化しているこの映画。「原作に忠実であるほど良いアニメ化である」「原作改変は悪」といった、原作至上主義が唱えられる昨今を象徴しているようです。

もちろん元からある長所を殺してしまう改変は、決してされるべきではありません。しかしながら週刊連載漫画ゆえの展開の「歪さ」を平らにするのは、むしろ良改変なのではないかと思います。

例えば、風太郎の幼馴染である竹林に関する場面。五つ子との対照的な存在として彼女たちの前に現れるわけですが、それまでの脈絡がない唐突な登場のため、単に嫌味な人にしか映りませんでした。メインストーリーに絡まない展開は、第2期と同様に省略しても良かったのではないでしょうか。

加えて全編を通して叙情的なBGMが流れるため、大音量の映画館ではどうしても過剰に感じられます。内容についても、テレビシリーズ第3期として放送してもおかしくないボリュームです。そのため映画というよりは、テレビアニメを観ている印象が残ります。これらに関しては、原作に忠実すぎるのが悪い方に働いたと言わざるを得ません。

各々の過去との決着

複数のヒロインがいるラブコメは古今東西、炎上が付き物。主人公と結ばれない「負けヒロイン」が生まれるため、そのキャラクターのファンからの反対意見は、ある種仕方ないと言えます。

かといってマルチエンド形式にすると、それはそれで批判が出てきます。担当編集の方は「全員分のルートっていうんですか、それを描くとなると、それまでに描いてきたすべてが無意味になる」ため、不採用にしたと語っていました。

そんな中でこの作品の幕引きに対する批判は、比較的少なかった印象があります。理由として考えられるのは、恋愛要素と並行して、ヒロイン5人の成長物語がしっかりと描かれていたからでしょうか。

五つ子は風太郎との交流を通じ、各々の過去やコンプレックスと向き合い、乗り越えます。テレビシリーズと劇場版を通して彼女たちは、心身ともに大きく成長を遂げました。

「夢追い馬鹿」一花は、当初は姉妹にすら隠していた、役者の夢を叶えようと努力しています。活動を通して自信をつけた彼女は、夏休み明けからは学校を休学し、芸能活動に本腰を入れます。

「身内馬鹿」二乃は、姉妹に対して不関与な父親を、学園祭に招待しました。一瞬でも学校に来てくれた彼に、思い出のパンケーキを振る舞い、自分たちの成長を見せつけます。

「卑屈馬鹿」三玖は、自分の気持ちに正直になりました。料理下手だったにも関わらず、バレンタインの手作りチョコをきっかけに料理に興味を持ち、調理学校に進学するにまでいたったのです。

「真面目馬鹿」五月は、母親と同じ教師の道を志すも、実力不足や理想の教師像に葛藤していました。学園祭での出来事を経て、自分なりの答えを見出し、その葛藤を振り切ります。

この4人は自身の未来に向かって前進しています。風太郎と結ばれなかったものの、劇中の台詞にあるように、彼女たちに後悔はありません。まさに「花嫁ではない4人を切り捨てる結末ではなく、それぞれ女の子たちが風太郎としっかり決着をつけるラスト」です。

【インタビュー】5分の4の読者に嫌われる覚悟で。『五等分の花嫁』春場ねぎが語る、ヒロイン創作秘話 - ライブドアニュース
ラブコメのメインヒロインは基本ひとりだ。……だって主人公が誰と結ばれるのか、わかっていたほうが安心できるじゃないか。ところが春場ねぎが連載している漫画『五等分の花嫁』には、そんなヒロインが5人もいる。

そして「脳筋馬鹿」四葉は、ずっと自分の存在意義を疑っていました。小学生のときに風太郎と交わした約束を果たせていないことへの不甲斐なさや、前の高校で他の姉妹4人に迷惑をかけたため自分だけが特別になることへの申し訳なさが、その背景にあります。

風太郎に告白されてからも、そういった過去に囚われていた彼女はすぐに返答しませんでした。姉妹からの後押しがあって、ようやく過去から脱却し、未来に向かって一歩を踏み出します。

五つ子だけでなく風太郎もまた、小学生時代の思い出に囚われていました。しかし一年間の学校生活を通し、過去の思い出を抜きにして、現在の彼女たち一人ひとりと向き合います。だからこそ勉強面で四葉を支えながら、自分も彼女に支えられてきたことに気付いたのです。

6人がそれぞれの過去に決着をつけ、舞台は5年後の結婚式へ。そこから最後の披露宴まで、ヒロイン5人全員を見捨てない展開が用意されており、感動しました。

本編は結婚式の日でバッサリと終わります。エンドロールでは、作品の世界観に合ったエンディング曲『五等分の花嫁~ありがとうの花~』が流れます。テレビシリーズ同様に、劇中のキャラの感情とリンクする歌詞は素晴らしいし、鑑賞後まで余韻を噛みしめたくなりました。

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最後に

初期から四葉推しの私は、ただただ泣いていました。漫画やアニメのファンにとっては、必見の一作に違いありません。ぜひテレビシリーズと一緒に観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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