アニメ『お兄ちゃんはおしまい!』感想:日常系TSFを描く変態的作画

(C)ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

変態(褒め言葉)。

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作品情報

2019年から『月刊ComicREX』で連載されている、ねことうふによる同名漫画をアニメ化。ニート生活を続けていた青年が、妹に薬を飲まされ女の子になってしまい、新しい生活を始める。アニメーション制作を務めるのは、スタジオバインド。

原作: ねことうふ
出演: 高野麻里佳 / 石原夏織 / 金元寿子 / 津田美波 ほか
演出: 藤井慎吾 ほか
脚本: 横手美智子 / 平見瞠
シリーズ構成: 横手美智子
放送期間: 2023/01/05 – 03/23
話数: 12話

あらすじ

引きこもりのダメニートな緒山まひろは、ある日目覚めると“女の子”になっていた!?鏡に映る美少女が自分だと分からず混乱するまひろのもとに、飛び級で大学に入学した天才科学者である妹・緒山みはりが現れ、飲み物に怪しげな薬を盛られていたことが判明する…!
もう2年も外に出ないでいかがわしいゲーム三昧…たまには働いてもらわなきゃ!
みはりによる“女の子になる薬”の経過観察として、突如女の子として暮らすことになったまひろにとって、トイレやお風呂、スカートやブラジャーなど“女の子の生活”は知らないことばかり…。さらに、みはりの中学時代の同級生である穂月かえでやその妹・もみじ達とも知り合い、まひろの日常はどんどん賑やかさを増していく。苦難の連続に、果たして“元”お兄ちゃんの運命やいかに…!?

ストーリー | TVアニメ「お兄ちゃんはおしまい!」公式サイトより引用
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レビュー

このレビューはアニメ『お兄ちゃんはおしまい!』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

圧倒的な作画クオリティ

あるとき突然、身体が性別ごと別の姿に変わってしまう。漫画やアニメで、たびたび目にする現実離れした設定ではないでしょうか。そういったストーリーの作品は、「TSF」と呼ばれるジャンルに分類されます。

TSFとは、性転換を扱ったフィクションを意味する「Transsexual Fiction」の略称。代表的な作品としては、『らんま1/2』が挙げられます。それほど昔から存在している同ジャンルに新しく誕生したのが、2023年1〜3月に放送された「おにまい」こと『お兄ちゃんはおしまい!』です。

家に引きこもってニート生活を楽しんでいた主人公・緒山真尋は、飛び級で大学に入学した妹・みはりに薬を飲まされ女の子の身体になってしまう。女の子「緒山まひろ」としての生活に苦戦しつつも、引きこもりから脱却すべく奮闘する、という内容のコメディです。

原作は、「ねことうふ」さんの同名漫画。元々は2017年からpixivに投稿されていましたが、その同人展開が徐々に人気を集め、翌年6月に商業版コミックス第1巻が発売されました。さらに現在では、『月刊ComicREX』で連載が行われています。

AnimeJapanの「アニメ化してほしい漫画ランキング」にて、2020年に第3位、2021年に第7位と、2年連続でランクインした「おにまい」。ファンからの期待を集める中でアニメ化された今作ですが、アニメとしての最大の魅力と言えるのが、作画のクオリティの圧倒的な高さです。

細部まで丁寧に描き込まれている登場人物たちは生き生きとしており、その描写からはフェチズムすら感じられます。他のテレビアニメとは一線を画しており、テレビシリーズというより映画のような映像だと思いました。しかも最初から最後まで、高いクオリティを保っているのが凄い。

個人的には特に、第3話の料理シーンに感動しました。レタスやベーコンがとても瑞々しく描かれており、出来上がったチャーハンが最高に美味しそうでした。

本作の作画を手掛けているのは、アニメ『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』(2021)のスタジオバインド。設立間もないスタジオとはいえ、アニメーションスタッフの優秀さが伺えました。

クオリティの高さが顕著に表れているのが、オープニングとエンディング。どちらの映像も絵がぬるぬると動いており、作画にかける熱量の高さが見て取れます。特にエンディングは、不必要なまでに過剰にキャラを動かしており、良い意味で「変態的」だと感じました。

曲に関しても、どちらも中毒性が高く、つい何度も聴いてしまいます。オープニングテーマ『アイデン貞貞メルトダウン』は、従来の深夜アニメを連想させるアップテンポな曲。世界的に有名なコスプレイヤー・えなこさんが歌っていることも、海外の作品人気に繋がっていると考えられます。

本編を観ていると、パステルカラーを基調とした色彩や、星・水玉・ハートといったファンシーなモチーフが使われており、「女の子」的な可愛らしさが画面全体に溢れていました。また俯瞰や引きを多用した特徴的なアングルも、目を引く要素です。

こうした画作りによって、作品世界のリアリティがファンタジー寄りになっています。言い換えればこのアニメの世界は、私たちの現実とは異なる次元の話として切り離されているのです。

現実世界と切り離された「日常」

「怪しい薬を飲まされた青年が、女の子の身体になってしまう」という設定は、古今東西、様々な創作物で使い古されてきました。そのため一歩間違えれば、いわゆる「量産型」的な話になりかねません。

しかし「おにまい」がエポックメイキングなのが、TSFと「日常もの」を組み合わせている点。あまり相性が良くないであろう、2つのジャンルの融合が見事に成し遂げられているのです。その要因として考えられるのは、女性化した身体に対する男性目線の徹底的な排除です。

TSF作品の多くには、女性化した身体に対して、周囲もしくは本人自身の男性的な目線で、性的に描写する展開があります。近年大ヒットした映画『君の名は。』(2016)にもある展開であり、いわばこのジャンル特有のクセとも言えます。こういったハラスメント的な展開に、拒否反応を示す人も少なくないでしょう。

そんな中で今作の主人公・まひろは、女性化した自分の身体を性的な目線で見ることがほとんどありません。第1話の時点で既に、変化した身体を客観的かつ即物的に認識しています。加えて早々に、女の子としてのアイデンティティを受け入れます。

そのため、まひろが他の女の子と触れ合う際、その言動に男性らしさやいやらしさが全くありません。妹のみはりからは「人畜無害」と称されていました。確かにビジュアルだけだと、女の子同士のじゃれ合いにしか見えないのだから不思議です。

アニメでは、第2話までTSFお決まりの展開が繰り広げられます。そうしたお約束が一通り終わった第3話以降は、ニート生活を気に入っていたまひろが、外の世界へと引きずり出される。それと同時に「日常もの」としての色合いが濃くなっていきます。

第6話で中学校に通い始めてからは、交友関係がさらに広がる。そこで周囲から好意的に受け入れられたまひろは、徐々に外の世界に居心地の良さを見出していき、積極的にコミュニケーションをとるようになる。

劇中の女の子同士のやり取りから感じられるのは、アニメ『みなみけ』シリーズやアニメ『日常』(2011)を見ているような安心感。日常ものアニメの魅力が、彼女たちの関係性にも継承されています。なのでTSFに対して苦手意識がある人も、比較的見やすい作品だと思います。

とはいえ本作で描かれる日常は、私たちの現実とは異なります。両親が海外在住と言及されてはいるものの、二人の生活費の出所は気になるし、中学校編入にあたっての戸籍の問題など、根本的なツッコミどころは多々あります。

ただし先述したファンシーな画作りが、フィクショナルな話とマッチしているため、比較的自然に受け入れられました。そもそも女の子になる薬の存在がSF的すぎるので、一つ一つにツッコミを入れるのは野暮なのかもしれません。

男らしくではなく、自分らしく

中学生たちの楽しい日常を通して描かれるのは、まひろの自意識の揺らぎ。まひろ自身、「男らしく」や「男に戻りたい」と繰り返し発言していました。しかし上述したように、男性らしさとは程遠く、言動や振る舞いは完全に「女の子」です。

こうした自意識は、元々というより薬の影響なのかもしれませんが、劇中では深く言及されません。おそらく身体だけでなく、中身も多かれ少なかれ変化していると考えられます。

またまひろ自体、実年齢20歳くらいの青年にしては知識や教養が足りていないので、感情移入はしにくいキャラです。むしろみはり同様に、妹や子供を観ているような感覚で観ていた人が多いのではないでしょうか。

最終話にて、まひろはみんなと出かけた温泉旅行の最中、男の身体に戻りかけてしまう。みはりに「女の子になる薬」を渡されるものの、一度その薬を飲むのを躊躇する。しかしその後、みんなと過ごした楽しい日々を思い出して、密かに薬を飲むのだった。

全12話を通して、楽しそうな日常が丁寧に描かれていることで、この場面のまひろの選択にも説得力がありました。第1話冒頭とは対照的に、女の子であることを主体的に選んだまひろが、本当の意味で自分らしく居られる場所を知り、性別という枠組みにとらわれず、自分らしさを肯定したラスト。雪の演出も相まって、素晴らしい終わり方でした。

まひろ役の高野麻里佳さん、みはり役の石原夏織さん、穂月かえで役の金元寿子さんは、2018年に製作されたドラマCDの面々が続投しているだけあって、キャラの掛け合いには終始安定感があります。

今回のアニメ化にあたって新たに起用された方々も含め、日常ものとしての温かい雰囲気が形成されているように感じられました。特に主演を務める高野麻里佳さんのはっちゃけた演技は、まひろの可愛らしさを何倍にも増幅させていました。

予告やあらすじの「色物」感だけを見て、変態アニメと敬遠するのは非常にもったいない、ほのぼのとした日常ものアニメです。

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最後に

ぜひとも一度頭を空っぽにして観ていただきたい良作です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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