あの日吹いた風を信じて。
作品情報
2023年9月から放送されている『仮面ライダーガッチャード』の劇場版作品。テレビシリーズのメイン監督である田﨑竜太と、メインライターの一人である長谷川圭一がタッグを組む。同時上映は『爆上戦隊ブンブンジャー 劇場BOON! プロミス・ザ・サーキット』。
原作: 石ノ森章太郎
出演: 本島純政 / 松本麗世 / 藤林泰也 / 小島よしお / DAIGO ほか
監督: 田﨑竜太
脚本: 長谷川圭一
公開: 2024/07/26
上映時間: 63分
あらすじ
突如、未来の世界から、時空ゲートを通って敵の大軍団が襲来!
ストーリー – 映画 『仮面ライダーガッチャード ザ・フューチャー・デイブレイク』『爆上戦隊ブンブンジャー 劇場 BOON︕ プロミス・ザ・サーキット』より引用
なんとか応戦する一ノ瀬宝太郎=仮面ライダーガッチャードたち。
未来にはかつて幾度も宝太郎たちの窮地を救った
“20年後の宝太郎”=仮面ライダーガッチャードデイブレイクがいる。
「今度は俺が助けなきゃ!」
未来の危機を察知した宝太郎たちは
“ギガントライナー”で時空を超え
デイブレイクのいる未来への大冒険に出発!!
レビュー
このレビューは『仮面ライダーガッチャード ザ・フューチャー・デイブレイク』および関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
バッドエンドルートとの邂逅
令和仮面ライダーシリーズ第5作にあたる『仮面ライダーガッチャード』のモチーフは、錬金術。仮面ライダーガッチャードに変身する主人公の高校生・一ノ瀬宝太郎が、封印から解き放たれた人工生命体ケミーを回収しながら、仲間たちと錬金術師の修行をする物語です。
昨年公開の映画『仮面ライダー THE WINTER MOVIE ガッチャード&ギーツ 最強ケミー★ガッチャ大作戦』(2023)は、前作『仮面ライダーギーツ』(2022-23)とのクロスオーバー企画ながら、『ガッチャード』第15話と第16話の間に位置する、本編と密接に連動した内容でした。
テレビシーズが終盤を迎える中で公開された今作もまた、第43話と第44話の間のエピソードです。とはいえ『ガッチャード&ギーツ』と比べると、連動要素は控えめ。というのも物語の舞台は、第16~18話に登場した仮面ライダーガッチャードデイブレイクがいる20年後の未来です。
映画冒頭、突如として未来から来た敵の軍団が、宝太郎や仮面ライダーマジェードこと九堂りんねをはじめとした錬金アカデミーの面々に襲い掛かる。未来の危機を知らされた宝太郎とりんねは、訳も分からず巻き込まれた友人・加治木涼とともに20年後へと向かう。
すると目の前に広がっていたのは、闇の錬金術師・グリオンに支配された世界。『劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』(2003)のディストピアや、『劇場版 仮面ライダードライブ サプライズ・フューチャー』(2015)の未来を連想させる絶望的な状況でした。
テレビシリーズでは、グリオンの力に圧倒されていた宝太郎たちが、20年後の宝太郎が変身するガッチャードデイブレイクに命を救われた。「この時もしもグリオンに敗北していたとしたら。」その未来こそデイブレイクがいる世界線であり、宝太郎が本来歩むはずだった人生なのです。
この敗北を期に、デイブレイクは仲間たちを次々と失っていく。やがて本編では敵対関係にある「冥黒の三姉妹」アトロポスとクロトーとも結託してレジスタンスを結成し、人類を守るため孤独に戦っていた。大怪我を負いながらも戦い続けるその姿は、死に場所を探しているようだった。
劇中で映し出されたのは、辺り一面に広がる大量の墓、そこに刻まれる仲間たちの名前、その場に佇むデイブレイクの姿。あるいは、グリオンの攻撃で右目を潰される宝太郎。『ガッチャード』のバッドエンドを具現化したような残酷な描写の数々には、ただただ驚かされました。
『ガッチャード』は明るい雰囲気に包まれているとはいえ、宝太郎の放つ光が眩いほど、物語の闇の部分も濃くなるのが特徴的で、容赦なくシリアスな回も本編にはあります。本作はそうしたエピソードと同様ではありますが、その悲惨さに子供が怖がるのも無理はありません。
未来のシーンに関しては、島根県出雲市と雲南市でロケが行われました。市の協力で実現したバイクシーンでは、都内での撮影が難しい「公道を走る仮面ライダー」が見られて嬉しい。加えて20年後の宝太郎が海岸に佇むカットなど、美しい光景が多いのも見どころの一つに思いました。
デイブレイクは悲劇的な経験を重ねたことで、思考が極端になっており、それにより事態が二転三転していく。この平成ライダー初期を彷彿とさせるテンポ感は、平成から令和にかけてシリーズに携わり続けるメイン監督・田﨑竜太さんの手腕あってこそでしょう。
過去の自分からのエール
脚本を担当するのは、テレビシリーズのメインライターの1人である長谷川圭一さん。同じくメインライターを務める内田裕基さんが生み出したデイブレイクの設定を大幅に膨らませています。ケミーとの関係性の違いなど、台詞だけでなく非言語的な部分を含めて見事に描写されていました。
宝太郎とりんねはデイブレイクに共闘を断られる。特にりんねに対しては「ダメだ!!」と語気を強めていた。その原因は、本編では第27話で行われたウロボロス界の儀式。デイブレイクの世界線では作戦が失敗し、りんねは命を落としてしまう。戦ってほしくない理由を聞かれた途端にシュンとする彼の表情が、何とも切ない。
そんな20年後の宝太郎を演じるのは、DAIGOさん。宝太郎役の本島純政さんと顔のパーツはそこまで同じではないのに、眼帯を付けると似ているのが不思議です。本編の声だけの出演が先に決まっていたため、偶然の発見とも言えるこのキャスティングが、今作に説得力を与えていました。
一方で現代では、安倍乙さん演じる銀杏蓮華や富園力也さん演じる鶴原錆丸ら仲間たちが、敵を未来へ送り返そうと応戦していた。苦戦を強いられる中、仮面ライダーレジェンドこと鳳桜・カグヤ・クォーツの前に、『仮面ライダーディケイド』(2009)の主人公・門矢士が通りすがる。
歴代ライダーを繋ぐディケイドの役割をレジェンドへ継承しているとも考えられる今回の客演。相変わらず上から目線で、写真のピントは合っていない。松浦大悟プロデューサー補が考えた台詞から彼の同作への強い思い入れが伺えましたし、ディケイド好きな私も笑顔になる一幕でした。
また仮面ライダーヴァルバラドの戦闘シーンには、次作『仮面ライダーガヴ』の主人公・ショウマが登場します。並行世界を巡るディケイドを描いたことで、次回作の仮面ライダーを毎年お披露目している「夏映画」の裏で実は彼が動いていた、という解釈を可能にした見事な構成です。
DAIGOさんの出演によって新たにゲストを起用する縛りから解放された本作。オリジナルの敵幹部である「冥黒のデスマスク」ヘルクレイト、ラキネイレス、アルザードの3人は、黒鋼スパナ役の藤林泰也さん、ラケシス役の坂巻有紗さん、ミナト役の熊木陸斗さんがそれぞれ演じています。
つまり敵キャラは味方と同じ顔をしており、その言動が元のキャラの尊厳を破壊していきます。3人とも本来の役との振り幅が面白かったですが、特にミナトの見た目で最低な言動を繰り返すアルザードは、不快すぎて最高でした。
その後、グリオンに捕らわれたりんねを助けようとするも、彼が変身した仮面ライダードラドの力を前にしたデイブレイクは絶望する。しかし宝太郎の言葉を受けて、諦めない気持ちを思い出し、再び立ち上がる。この一連の流れのカッコよさは本当に鳥肌ものでした。
デイブレイクはテレビシリーズで過去を改変したが、彼自身の世界は存在し続ける。つまり過去が変わると、枝分かれして時間軸が増えていく方式であり、元の世界には影響を及ぼさない。この残酷な設定が、デイブレイクの置かれた現状の救いの無さを際立たせています。
宝太郎がデイブレイクを奮起させるストーリーは、大人の観客の視点からすれば、過去の自分に背中を押されている構図なのです。どんなに現実に絶望したとしても歩みを止めてはいけない、というメッセージのアツさも相まって、終盤の展開は大人だからこそ心を動かされるのではないでしょうか。
王道ヒーローを突き進む姿勢
グリオンを倒した後、彼を操っていた冥黒王が姿を現し、ガッチャードたちはピンチに陥る。ここで鍵になるのが、レジスタンスに属する研究者の但馬鉄男。小島よしおさんが演じているゲストキャラながら、目立った活躍をしていました。
ライドケミーカードが人々の手にわたり、人間とケミーの心が繋がったことを察知した彼は、声を上げて宝太郎たちを応援しはじめる。「がんがんがん頑張れ!頑張れライダー!」小島さんが考案した独特なリズムの声援ではありましたが、個人的にはそこまで気になりませんでした。
但馬は画面の前の観客にも応援を呼びかける。入場者プレゼントとしてライドケミートレカが配布されており、このカードを手にしながら応援できるようになっています。前年に公開された『映画 仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』(2023)のIDコアと同様の役割を担っているのです。
とりわけ『ガッチャード』は本編でも応援の大切さを描いており、劇場版においてもライダーを応援する声が力に変わる演出には感動させられました。先述した燻っていたヒーローが復活を遂げるまでの展開と同じように、ヒーローものの王道を真正面から描く姿勢はとても好きです。
今作は悲惨な描写が多いのに対し、話自体は王道で見やすく、バランスが良いです。それに加え戦闘シーンも多く、アクション監督の福沢博文さんと田﨑監督の演出が堪能できます。総じてヒーローものの面白さが詰まった一作と言わざるを得ません。
人々の声援を受けたミラクルガッチャードと、りんねの想いが込められた「ザ・サン」の力が乗ったガッチャードシャイニングデイブレイク、そしてマジェードが3人で巨大化した冥黒王に必殺技を決める。シリーズでは珍しく映画限定フォームが2つある点には、特別感がありました。
デイブレイク世界線のりんねが発した「私まだ、一緒に戦いたいよ、宝太郎」。映画終盤、孤独に戦っていたと思い込んでいたデイブレイクは、この言葉の真意を知る。彼の戦いがこれからも続くのは辛いけれど、彼女と一緒なら大丈夫だろうとポジティブな気持ちになりました。
生き残った冥黒王を追って、デイブレイクは過去に飛んだ。エンドロールに映し出される夏祭りのシーンは、この改変によって生まれた本編とは異なる世界線の話。ここでのミナトの恋の予感や、グミを食べるスパナなどの細かい描写が楽しかったです。
また全編通して、宝太郎とりんねの掛け合いが良かった。作品のヒロインにして、主人公の相棒である松本麗世さん演じるりんね。宝太郎と彼女の唯一無二の関係性を願わくばずっと見ていたいです。もちろん彼らだけでなく登場人物全員の成長した姿を見られるのも醍醐味だと思いました。
エンドロールで流れるのは、主題歌『THE FUTURE DAYBREAK』。2人の宝太郎を示している歌詞に加え、夏っぽい疾走感とともに一抹の寂しさを感じさせる曲調が素晴らしく、聴くと今でも感極まってしまいます。
約1時間という短さながら濃い密度で話が展開していくので、満足度の高い劇場版に仕上がっている本作。ただし未来パートや現代パート、限定フォーム、ディケイド、ガヴといった多くの要素が詰め込まれており、尺不足な印象は否めません。このあたりはディレクターズカット版が待たれます。
そして「諦めなければ、未来は変えられる」というアツいメッセージと、そんな手垢がついた直球なメッセージを真正面から映像的に表現した製作陣の姿勢の両方に感動しました。
最後に
子供だけでなく大人にも刺さるであろう王道ヒーロー映画なので、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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