銀魂版『アベンジャーズ/エンドゲーム』です。
作品情報
2006年に放送を開始したテレビアニメ『銀魂』の劇場版3作目。原作は2003年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった同名漫画。2018年に終了したテレビシリーズに収まらなかった原作エピソード最終話までを映像化する。主演の杉田智和をはじめとした主要キャストが総出演する。アニメーション制作を務めるのは、テレビシリーズ第3期以降を担当したバンダイナムコピクチャーズ。
原作: 空知英秋
出演: 杉田智和 / 阪口大助 / 釘宮理恵 / 石田彰 / 子安武人 / 山寺宏一 ほか
監督: 宮脇千鶴
脚本: 宮脇千鶴
公開: 2021/01/08
上映時間: 104分
あらすじ
かつて幼い銀時たちを教え導いた師匠・吉田松陽は別人格・虚(うつろ)へと姿を変え、地球を道連れに自らの命を終わらせようとしていた。そんな最大の敵である虚の野望を阻止すべく、かつての盟友である銀時、高杉、桂はそれぞれの信念を胸に共闘を決意。さらには、銀時たちに加勢すべく万事屋の新八と神楽、真選組、かぶき町の面々、かつてのライバルたちまでもが集結し、護るべきものを護るために命を賭したバカ騒ぎを繰り広げる。
映画アニメ 銀魂 THE FINAL (2021)について 映画データベース – allcinemaより引用
レビュー
このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
積み重なった歴史と文脈
『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020)の週末動員ランキング連続首位記録を12週でストップさせた『銀魂 THE FINAL』。興行収入14億円を突破しているこの作品。本作に関してまず押さえておきたいポイントが、原作漫画もしくはアニメを知らなければ、ついていけない物語であるという点です。それまでの劇場版2作や『劇場版 鬼滅の刃』と異なって、一見さんお断り感が強いのが特徴的です。
『銀魂』という作品自体は、一巻から順番に読まずに、途中の話を適当に選んで読んでも面白い話がほとんど。アニメになると一話または二話で完結するような短編エピソードが多く、「サザエさん方式」のレギュラードラマが展開されるからです。パロディ、下ネタ、メタフィクションなんでもありのSFコメディが魅力となっています。
しかし2014年に連載が始まった将軍暗殺篇によって、物語の方向性は変化しました。ネタキャラだった第14代将軍・徳川茂茂の死を描いたことで、それまでの長編とは違って、「もう元には戻れない」展開になることを読者に宣言しています。言い換えれば、シリーズの最終章であることを表しているのです。作品の重要人物である吉田松陽の正体=虚と坂田銀時たちが対決する最終章は、シリアス色がぐっと強くなりました。さらば真選組、烙陽決戦篇、銀ノ魂篇、そして二年後篇まで連続して描かれた彼との戦いは、2019年に完結しました。
最終章の連載が約5年間も続いたのは、原作者・空知英秋さんが描きたかったことをきっちり描き切るためだと思われます。また今まで登場したキャラクターを、最終章に再登場させたいという考えもあったと思います。当初の予定から長引いたことで、『週刊少年ジャンプ』での連載が終了しても物語は完結しませんでした。『ジャンプGIGA』、そして、公式アプリへと掲載の媒体を移動することで、何とか最終回を迎えることができました。
ではアニメはどのように完結するのか。2006年に始まったテレビアニメは、原作の進行に合わせて休止期間をたびたび設けつつ、2013年まで放送されました。その間に映画2作『劇場版 銀魂 新訳紅桜篇』(2010)と『劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』(2013)も製作されました。
「完結篇」と銘打たれた劇場版から約2年後、2015年に第3期がスタート。放送開始時は、この第3期をもって、原作漫画とアニメを同時期に完結させる予定でした。しかし漫画がなかなか完結しないため、さらば真選組篇で第3期を終えたあと、深夜枠へ移動して第4期を放送。原作の終了を待ちつつ、お蔵入りになっていたギャグ回「ポロリ篇」や再放送でつないだのち、2018年に銀ノ魂篇・二年後篇が放送されます。この段階にいたっても「まだ原作が終わらない」ということで、二年後篇の途中の中途半端なところでテレビでの放送は終了してしまいました。
こういった紆余曲折の道のりについては、第4期最終話(第367話)「悪役にもやっていい事と悪いことがある」の後半「銀魂終わる終わる詐欺裁判」にて、自虐交じりに解説されました。このように製作の裏側をおおっぴろげにキャラクターに言わせてしまうのが、何より銀魂らしい。
第4期最終話のその後から、原作最終話までを映像化した今回の劇場版。ただしすべてのエピソードが劇場版に収まったわけではなく、dTVで独占配信されている前日譚『銀魂 THE SEMI-FINAL』にて補足されました。万事屋の話と真選組の話が製作されましたが、これらを加えても映像化されていない部分が残っています。なのでその部分を補うためには、原作を読む必要があります。というように、ここまでの文脈を踏まえると、本作が初見向きの作品ではないことが分かります。
映画としては歪な構成
この映画はプロローグの第一部、本編の第二部、そしてエピローグの第三部、というような三部構成で作られています。これまでテレビシリーズで語られた長編と同じく、プロローグ・エピローグがギャグ強めで、本編がシリアス強めです。しかし、上述したようにこの作品は、二年後篇という一つのエピソードの途中から始まります。そのため一本の映画としては、いびつな構成となっています。言うなれば、起承転結の「結」のみが描かれているのです。
第一部は「SILVER BALL」。劇場版の物語に至るまでの流れや設定を説明した長めのあらすじです。サブタイトルからも明らかなように、『ジャンプGIGA』連載初回に展開された『ドラゴンボール』パロディネタが再現されています。絵のタッチが鳥山明テイストになり、本家の主題歌を使っているという本気ぶり。さらに『ワンピース』ネタが加わるなど、原作から追加された要素も見受けられます。アニメ第2期の「2年後編」や、『劇場版 銀魂 完結篇』で描かれた5年後の描写もありました。ファンにとっては嬉しい描写ではないでしょうか。
このプロローグが、初見の人のためのあらすじとして本当に機能しているかというと、そうは言い切れない印象を抱きました。普通のあらすじならまだしも、パロディネタが乗っかていることで、ナレーションや映像がスッと入ってこないからです。この点に関しては、スタッフたちの間でも「画が強すぎて入ってこない」や「本末転倒」と言及されていました(※1)。そのため鑑賞前に、今回の物語に至る経緯を押さえておいたほうが良いのは確かです。
※1:『銀魂 THE FINAL』パンフレット参照
メインとなる第二部は「宿命」。そこで主に描かれるのは、銀時と高杉晋助の対決の決着と、銀時と松陽の再会です。虚に乗っ取られた高杉と銀時が戦うアクションシーンは、今作の白眉だと思います。序盤のターミナルでの総力戦も同様に、アクションの作画に力が入っていることが分かります。ただ他のシーンの作画の中には、少し違和感を抱くカットが見受けられました。人物が会話しているだけの場面なのに、「なんか変?」と思わせるカットがあったのは、少し残念でした。
ただし物語に関しては、観客のエモーションを最大限に高ぶらせるものでした。高杉を倒したあと、ようやく銀時と松陽が再会する。松陽の腕を銀時がつかむ、そしてその手を神楽と新八がつかむ。4人と1匹が集まった場面を観ると、「ああ、本当によかったな」と感無量の気持ちになりました。
付け加えると、藤原啓治さんが演じていた服部全蔵を、本作では森川智之さんが演じています。一瞬しか出番はないですが、彼に新しく命を引き込んでくれたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
そして第三部は「天然パーマにロクな奴はいない」。先の戦いで負傷していたカラクリ・たまは眠りから覚め、東京へと変化した世界を知ることになります。ですがこの情報は、マダオの妄想による真っ赤なウソでした。たまが見ていたホログラムが徐々に消えていき、私たちが知っている「歌舞伎町」が現れます。同時にこのシーンが15年間の歴史の終幕を意味することを知ったとき、鳥肌が立ちました。
最後のプレゼント
前作『劇場版 銀魂 完結篇』は、タイムスリップ要素、過去と現在の銀時の共闘、またエンドロールの選曲など、いわゆる「最終話」要素の詰め合わせでした。それと比べて本作は、より原作・アニメファンに寄り添った「最終話」要素が盛り込まれています。作品とともに歩んできた人々への、製作陣からの最後のプレゼントであることが伝わってきました。
本作の入場者特典は「炭治郎&柱イラストカード」。原作者書き下ろしの炭治郎と柱9人のイラストという掟破りの特典は、『劇場版 鬼滅の刃』の大ヒット中に発表され話題を呼びました。ただし入場者特典はこれだけではありません。万事屋3人、真選組3人、銀時と高杉、そしてゴリラという象徴的な場面の原画がプレゼントされました。これら4枚の原画は、原作者自身が描いた劇中のカットです。鑑賞中にこれらの場面を見つけたとき、製作陣の原作へのリスペクトに感動しました。
『銀魂』といえばオープニング・エンディングの楽曲のカッコよさ・クオリティの高さが語られることが多いです。『THE FINAL』の主題歌・挿入歌を担当するアーティストは、SPYAIRとDOES。シリーズで過去何度も楽曲を提供している二組です。『銀魂』のアーティストといえば、この二組といっても過言ではないでしょう。
そこで注目していただきたいのが、SPYAIRの『轍~Wadachi~』に乗せて流れるエンドロールの映像です。一見すると、美しい背景をバックにシルエット姿のキャラクターたちが集まってくる、おしゃれな映像。しかしその映像の中には、歴代のオープニング・エンディング映像からの引用が隠されているのです。
具体的に挙げると、
- 『花一匁』:波
- 『風船ガム』:銭封機
- 『WAVE』:ジャスタウェイ
- 『SILVER』:しずく
- 『MR.RAINDROP』:傘を差すエリザベス
- 『プライド革命』:走る銀時の足元
- 『グロリアスデイズ』:銀時と歴代の敵キャラが対峙する構図
- 『あっちむいて』:写真/ハンドクラップ
- 『Speed of flow』:バイクに乗るエリザベス
- 『This world is yours』:ワンピースを着た神楽
- 『ワンダフルデイズ』:キャラクターたちが歩く構図
- 『VS』:キャラクターたちが走る構図
- 『ウォーアイニー』:蛍
- 『ヒカリ証明論』:名場面を映した結晶/テレビ
といった要素があり、他にも紅葉や流れ星といったオープニング・エンディングで複数回使われているモチーフも、この映像に含まれています。ここまで積み上げられた歴史を知るファンだからこそ、気づくことができる嬉しい演出です。個人的には正直一番テンションが上がった場面でした。
今作の公開前からYouTubeにて歴代OP・ED集が期間限定で公開されているのですが、この動画がまさか今回のエンドロールの伏線になるとは思っていませんでした。2021年3月までの限定公開なので、鑑賞した方、もしくはこれから鑑賞する方は、こちらで予習復習するのがおススメ。
最高のエンドロールでしっとりと締めるのかな。そう思わせておいて、ただで終わらないのが『銀魂』です。公式ファンブック『広侍苑』に書き下ろされた3年Z組FINALが、エンドロール後に描かれます。度重なる終わる終わる詐欺、原作の最終回延期に言及し、シリアスキャラの高杉、そして虚にすらボケさせる「なんでもあり」っぷり。観客に強烈な印象を残すギャグ話で締めることで、私たちは笑って映画館を出ることが出来るのです。
最後に
全体を通して、これまでの2作よりファンムービーの色合いが強いのは否めません。ただ作品を知っていればたくさん笑って、感動できる最終話になっています。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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