『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』感想:試行錯誤と葛藤の歴史

(C)2015「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会

結成11周年を迎えるアイドルグループの歴史の一部。

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作品情報

アイドルグループ・乃木坂46に密着したドキュメンタリー映画第1作。グループを結成した2011年から約4年間の活動の裏側を、メンバーへのインタビュー映像や母親への取材とともに明らかにする。監督は『失いたくないから』など多くのMVを担当してきた丸山健志。

出演: 乃木坂46 ほか
監督: 丸山健志
公開: 2015/07/10
上映時間: 119分

あらすじ

結成3周年を迎え、着実に知名度をあげてきた美少女アイドルグループ・乃木坂46。だが今までその舞台裏の姿はほとんど表には出されてこなかった……。
そんな彼女たちの素顔に初めてスポットが当てられた、待望のドキュメンタリー映画が公開。2011年8月、港区赤坂の乃木坂駅近くで36名の少女たちがお披露目された。
久々の正統派アイドルグループの誕生に沸く一方で、彼女たちに課せられた”宿命”があった。それは「AKB48の公式ライバル」ということ。以来、常に国民的アイドルグループと比較されながらも、夢のためひたむきに走り続けてきた。

イントロダクション|乃木坂46初のドキュメンタリー映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』公式サイトより引用
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レビュー

このレビューは『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

人生が一変する瞬間

2011年8月21日、アイドルグループ「乃木坂46」が産声を上げた。最終オーディションに合格し、記者会見に臨む少女たちの表情は、喜びと不安に満ちていた。このドキュメンタリーでは、結成日から約4年間のグループの活動について、時系列順に語られていきます。

今作の土台となっているのは、周囲のスタッフたちが日常的に撮り溜めていた、膨大な量の映像素材。なのでカメラを意識していない「リアル」な姿が映し出されています。そういった映像の間に、当事者たちが当時を振り返るインタビューが挟み込まれます。

また作品のナレーション台詞は、メンバーを一番近くで見てきた母親たちの言葉。西田尚美さんの声で、当時の気持ちや知られざるエピソードが明かされます。

乃木坂46の具体的な活動や出来事に関して、作中ではあまり説明されず、個々の感情や葛藤にフォーカスされています。そのためグループの歴史を知っているほうが、内容が入ってきやすいのは明らか。とはいえファンでない人でも理解できるように編集されていると思いました。

映画序盤では、中心メンバーとされる生駒里奈さん、西野七瀬さん、橋本奈々未さん、白石麻衣さん、生田絵梨花さんの5人が、加入前の自分を振り返ります。夢を追い求める者、過去を断ち切りたい者、あるいは家族を楽にしたい者。その境遇はさまざまでした。

桜井玲香さんは作中で、メンバーについて以下のように語ります。

「ネガティブで、目立つことが苦手な子が多くて、寂しがり屋で、でも意外としっかり自分を持ってて、なんかそういう内気だったり弱いっていう、自分たちが持っているマイナスな部分を、いつもなんか変えようって常に思っている子たち」。

この言葉からも、彼女たちが人生を変えようという意志を持っていたのが分かります。

乃木坂46の特徴として頻繁に挙げられるのが、メンバー同士の仲の良さ。地方出身組が寮で共同生活をしていたのも、その要因の一つでしょう。ただし他のアイドルとは一線を画すその特徴には、ここで語られる彼女たちの辛い過去が影響しているのか、とも想像させられます。

公式ライバルの意味

作品前半で浮き彫りになるのが、メンバー同士の競争心を煽る、黎明期の運営方針。それは乃木坂46結成の背景に、AKB48の存在があったからです。

2011年当時、AKB48は多大な人気を誇っていました。人気を集めた理由の一つが、アイドルを精神的に追い詰め、その姿をドキュメンタリックに人間ドラマとして売り出す手法。その代表的なイベントが、個人の人気を可視化する選抜総選挙や握手会でした。

AKB48を前提として誕生した「公式ライバル」。その言葉の不明瞭さに、メンバー自身も困惑していました。果たして乃木坂46は、AKB48や他の姉妹グループとは何が違うのか。当時の映像資料は、いかにしてグループを差別化するのか、という運営側の試行錯誤を如実に示していました。

48グループのライブで初披露したデビュー曲『ぐるぐるカーテン』。『会いたかった』を意識したカップリング曲。2ndシングルでは、同日にソロデビューする指原莉乃さんと「対決」。戦略的にも難しい、公式ライバルとして境界線を引くラインを、この時期の運営は探っていたと考えられます。

しかしながらメンバー間の競争といった性質は、他の48グループと似ていました。シングル毎にメンバーを選抜する制度をはじめ、カメラを入れての選抜発表や、冠番組に出演するメンバーの入れ替えなどの過酷さの打ち出しは、差別化の妨げだったように思われます。

乃木坂46における競争の象徴と言えるのが、オリジナルミュージカル『16人のプリンシパル』(2012)。舞台は二幕構成になっており、第1幕で全員は自己PRを行います。それを見た観客によって選ばれた16人のみが、第2幕のミュージカル「アリス in 乃木坂」に出演できる、といった構成でした(※1)。

※1:過去の戦績「16人のプリンシパル」 | 乃木坂46 公演「16人のプリンシパル」trois参照

彼女たちは毎日、周囲と比較され、優劣をつけられる環境にいました。まさに、毎日総選挙。それは自分との戦いであり、成果がダイレクトに評価される残酷なシステムでした。彼女たちの思考が、ネガティブな方向に傾いてしまうのも無理はありません。

本作で最も衝撃的だったのが、同公演の舞台裏のある場面。第2幕に選ばれた生駒さんと、選ばれなかった松村沙友理さんが衝突していました。ノーカットで映される長尺のやり取りには、限界に近い精神状態の危うさが表れており、見ていてかなり辛かったです。

坂に差し込む光と闇

『君の名は希望』に代表されるクオリティの高い楽曲や、メンバーの多才さ、(嫌いな言い方ですが)顔面偏差値の高さによってメディアに注目されはじめた乃木坂46は、着実にファンを獲得していきます。

グループの発展に伴い、中心メンバー5人が抱いた葛藤が作品後半で語られます。ある者は選抜制度の過酷さに苦しみ、ある者はセンターの重圧を実感し、またある者は休業に不安を感じていました。

特に印象的だったのは、2014年にAKB48との兼任を承諾した生駒さんのインタビュー。仲間とファンを動揺させたその決断について語る彼女は、泣き虫だったデビュー当初とは別人でした。過酷だったり理不尽だったりもする経験の数々により、彼女たちが確かに成長を遂げていることが伺えます。

同年、乃木坂46のNHK紅白歌合戦への初出場は叶いませんでした。それでもAKB48の出番で生駒さんがテレビに映ったとき、一斉に盛り上がるメンバーからは仲の良さが伝わってきます。

今作で特筆すべきは、グループの「闇」の部分を正面から描いているところ。2011年末、活動開始前に撮ったプリクラが流出した若月佑美さんは、号泣しながら謝罪していました。「過去の自分が、また未来に出てきて遮る」という彼女の一言には力強さが感じられます。

さらにグループに大きな影響を及ぼしたのが、2014年の松村さんへの「文春砲」。スタッフのカメラに映されていたのは、テレビ収録や撮影の現場でひとり茫然としている彼女でした。おそらく常に、心ここにあらずだったのだと思います。

このような「無かったことにしたい」問題の裏側にも踏み込んでいる点は、高橋栄樹さんによる『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズと似ており、AKB48的な見せ方とも言えます。

本作のラストに描かれるのは、『乃木坂46 3rd YEAR BIRTHDAY LIVE』(2015)と、モデルやドラマ、舞台へと活躍の幅を広げるメンバーたち。グループや仕事についての考えを語る様子からは、4年間での成長が見受けられました。

光の当たらぬ陰

今作の監督を務める丸山健志さんは、『失いたくないから』や『世界で一番 孤独なLover』、『夏のFree&Easy』など数多くのMVを担当。この映画の編集からは、メンバー一人ひとりへの優しさが感じられました。

公式ドキュメンタリーだけあって、作品が提示しているのは「運営が見てほしい乃木坂46」に過ぎません。いわばグループの持つ膨大な要素の中から抽出された物語なのです。そのためアンダーをはじめ、作中でスポットライトのあたらない者は多くいました。

それでも個人的に腑に落ちなかったのが、1期生のみを取り上げている点。この映画には、2期生がほとんど登場しません。唯一出てくるのが、12thシングル選抜発表での堀未央奈さんの姿。エンディング直前になって初めて取り上げられるため、とても唐突な印象を受けました。

2013年に行われたオーディションで合格した2期生は、「研究生」として日々レッスンを受けていました。同年に発売された7thシングルで堀さんは、いきなりセンターに抜擢されます。当時のファンに大きな衝撃を与えた2期生の登用でしたが、この件に関して本作は一切取り上げておらず、不思議に思いました。

昇格した一部メンバーを除き、2期生は長らく正規メンバーとしての活動はできずにいました。研究生制度自体の理不尽さや、昇格理由の不透明さ、そしてその期間の長さは、複数のメンバーに活動を辞退させるに十分でした。

映画終盤に描かれる『乃木坂46 3rd YEAR BIRTHDAY LIVE』にて、研究生全員の昇格が発表されます。この出来事についても、ドキュメンタリーでは省略されていました。これらを鑑みても、作品が製作された2015年時点ではまだ、彼女たちが受けた「不遇」な扱いをネタにすることすら出来なかったのが分かります。

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最後に

試行錯誤と葛藤を繰り返しながら坂道を駆け上がってく姿を、ぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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