『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』感想:東京五輪との符合は何を示すのか

Netflixオリジナル作品 「FYRE 夢に終わった最高のパーティー」独占配信中

今世紀最大に失敗したイベントの話。
ある意味で2021年の日本を象徴する一本、にはならないでほしい。

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作品情報

2017年に開催予定だった音楽フェス「FYRE Festival」の裏側に迫ったドキュメンタリー。Netflixオリジナル作品であり、2019年に配信が開始された。『ジム&アンディ』など多くのドキュメンタリーを手掛けてきたクリス・スミスが監督を務める。

原題: Fyre: The Greatest Party That Never Happened
出演: ビリー・マクファーランド / ジャ・ルール ほか
監督: クリス・スミス
配信: 2019/01/18
上映時間: 97分

あらすじ

ビリー・マクファーランドとラッパーのジャ・ルールによって企画されたファイア・フェスは、バハマのプライベートアイランドを舞台に、ビキニ姿のスーパーモデルたちをゲストに迎え、超有名アーティストが豪華な環境でのパフォーマンスを行う音楽フェスと謳っていた。しかし参加者たちを待っていたのは、想像を超える惨状だった。

『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』予告編 – Netflix [HD] – YouTubeより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

俺たちの理想の音楽フェス

本作で描かれる事件の発端は、FYREというスマホアプリでした。FYREとはユーザーが芸能人を直接ブッキングすることができるマッチングサービス。アプリの運営会社CEOであるビリー・マクファーランドは、ラッパーのジャ・ルールとともに、アプリPRのためのイベントを企画します。

開催場所となるのは、カリブ海の島国バハマ。きれいなエメラルドブルーの海が広がるロケーションで、一流ミュージシャンたちに歌ってもらう。音楽と一緒に、豪華な食事も楽しめたらいいよね。あと砂浜にテントをたてて、そこで優雅に寝泊まりできたら、きっと最高だよなあ。

そんな感じで漠然とした計画のもとで開始した、FYRE Festivalプロジェクト。2016年の暮れにイベントの宣伝が始まります。数百人のインフルエンサーたちが同時に、オレンジ一色の写真をInstagramに投稿しました。FYREによって仕組まれたこの広告は、目論見通りに大バズりしました。

注目を集める中で、2017年1月にプロモーションビデオが公開されます。スーパーモデルを多数起用し、バハマで撮影された映像。モデルたちが海に入って遊び、楽しげに戯れる姿は魅力的で、リッチやゴージャスという言葉を体現しているかのようでした。

SNSを日常的に利用する現代人。バハマの自然の美しさは、人々の「映え」に対する意識をくすぐり、自分もここに行きたいと強く思わせたでしょう。ここはマクファーランドたちの戦略の上手さが感じられる部分です。

チケットの価格は最も安くて500ドル、高いもので250,000ドルと全体的に高額でした。映像内ではフェスの詳細は何も説明されていません。それにもかかわらず、チケットは2日でほとんど完売。注目と人気の高さが伺えます。

日程は、同年の4月末から5月の始めの計6日間。つまりPVの公開から開催まで、もう5ヶ月を切っていることになります。まだドキュメンタリーの序盤の話なのですが、この時点でプロジェクト全体のなかなかに危うい雰囲気を感じられます。

マクファーランドは必要なお金をかき集めてきますが、時間と労力が圧倒的に足りないため、準備がまったく間に合いません。例え舞台構成の依頼をしたのは、開催のたった2ヶ月前。だいたい1年前から企画と予算集めをするのが一般的であることを考えると、いかに杜撰な予定が組まれていたかが分かります。

虚像が明るみになる悪夢

FYREフェスの計画は、その後ガタガタと音を立てて崩れていきます。土地の管理人と対立し、開催場所の変更を余儀なくされたり、広告で打ち出していたようなヴィラやテントは十分に用意できず避難用のテントで代用したり。まさに見切り発車が生んだ代償。

開催1ヶ月前になっても、インターネットやトイレといった基本的なインフラが整備されていないままでした。また予算の大盤振る舞いとは対照的に、従業員への給料の支払いが遅れていました。

関係者の間ではこの段階で既に、準備が間に合わないことが噂されていたことが語られます。中には直接的に問題点を指摘する人もいました。作品内のインタビューにも登場しており、その後クビを言い渡されたことが彼の口から明かされます。

そういった延期や中止の提案を跳ね除け、予定通りの日程で行うことを変えなかった運営サイド。そこにこだわっていた理由は分かりませんでしたが、「なんだかんだでいける」という気持ちがどこかにあったのではないかと推測します。

日ごとに切羽詰まっていくスタッフたちを見ていると、無理しなくていいのよ、という感情になりました。彼らは前日にいたっても遅くまで作業をしていました。そんな中で大雨がバハマを襲います。

地面は水浸し。準備していたテントはびしょ濡れ。どうにもできない状況に、さすがに「もう笑っちゃう」スタッフたち。本当に追い込まれたとき、人間って笑ってしまうんですね。

翌日になり、ここまでの経緯を知らない参加者が島へと向かいます。当日になってアーティストが参加見合わせを発表。それを皮切りにして、文字通りの悪夢が現実に起こります。

エコノミー以下の飛行機。予定とは異なるバーへの移動。リッチとはかけ離れた簡易テント。びしょぬれの会場。極めつけは、しなしなチーズが乗っかった小さなサンドイッチ。用意されていたこの食事を撮影したツイートが、イベントの悲惨さを象徴しています。

帰国しようにも飛行場はキャパオーバー。電気も無エ。トイレも無エ。インターネットも通って無エ。食事も無エ。水も無エ。だからお腹はぐーるぐる。吉幾三さんの『俺ら東京さ行ぐだ』並みの劣悪な状況に見舞われた参加者たちは、怒りや悲しみの気持ちをSNSに投稿します。それらは世界中にあっという間に拡散されました。

対応に追われるスタッフ。金が入ってこないと知り、怒る現地民。行方をくらますマクファーランド。今世紀最大の悲劇を生み出した今回の詐欺事件は、当然ながら民事訴訟に発展しました。マクファーランドは複数の詐欺行為により逮捕され、現在6年間の禁固刑に服しています。

2020東京五輪との一致

今回の事件について問題点はいろいろあると思いますが、真っ先に挙げられるのは企画自体の実現性の低さです。イベントの規模を考慮した適切な準備期間を設けたうえで、しっかりと時期を決定するべきでした。

次に、実現できないかもという現場の声を無視して、開催を強行した点が挙げられます。正しいことを言った人から解雇される。つまり延期や中止を誰も切り出すことができない環境だったと考えられます。

「あれ、なんか似たようなこと知っているな。」

映画を観ているとき現実の出来事を連想してしまうのは、『コンテイジョン』(2011)をコロナ禍に観たときのような妙な感覚があります。作中で準備中に起こった問題の数々は、日本にいてここ何年も耳にしてきた東京五輪にまつわるニュースと似ているように感じました。

東京オリンピック。コロナウイルスの流行により2020年に延期が発表されましたが、そもそも2013年に開催が決定した時点から、色々な問題が報道されてきました。一例としては、

  • 国立競技場のデザイン問題
  • エンブレムのデザイン盗用問題
  • 関東圏以外への競技会場の移転
  • スタッフをボランティアで賄う問題
  • 打ち水など暑さ対策を巡る炎上

様々な事件がありましたが、それでも「なんだかんだ開会したら盛り上がる」みたいな感覚を持っていた人は少なからずいたのではないでしょうか。

しかしそこに追い打ちをかけてきたのが、コロナウイルス。FYREフェスの場合に置き換えると、開催前日に降った豪雨のような絶望感があります。もう笑うしかない状況なのです。

  • 開催を決行する理由の不透明さ
  • 相次ぐ聖火ランナーの辞退
  • 有観客か無観客かは未定

といったように、昨年の延期発表以降も新たな問題が出続けています。最近では、あのチーズサンドイッチを彷彿とさせる報道もありました。似ていますね、本当に。

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問題山積みの中での開催。もう後戻りはできない。でも開催されてしまえば、もっと大変なことになる。関係者は薄々気づいているけれど、大声で言えない雰囲気なのではないか。映画を観た後では、どうしてもそのような憶測をしてしまう自分がいます。

今作は実話ながら、フィクションを見ているかのような展開の面白さがあることは確か。しかしながら、私たちが部外者の視点でこの作品を観ているからです。

本作の終盤で、バハマに住むある女性へのインタビューが映されます。彼女はコックとしてフェスの準備に携わってきました。給料が支払われなかったため、自分の身銭を切って、雇っている人への給料を支払っていました。彼女が怒りを露わにしている様子を見ると、笑うことなんて到底できません。

いざ当事者になると、目の前の出来事は喜劇から悲劇へと変わります。なので今作で語られたことを決して他人事と思わない。そういった姿勢がいま求められているのかもしれません。

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最後に

『コンテイジョン』に続く、現実とフィクションの一致。予備知識なしでも大丈夫なため、今すぐ観ていただきたい作品です。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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