『時をかける少女』映像化の第9弾です。
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作品情報
1965年に発表された筒井康隆による同名小説を原作とした、黒島結菜主演の連続ドラマ。日本テレビ系列「土曜ドラマ」枠で2016年に放送された。
原作: 筒井康隆『時をかける少女』
出演: 黒島結菜 / 菊池風磨 / 竹内涼真 ほか
演出: 岩本仁志 / 茂山佳則
脚本: 渡部亮平
放送期間: 2016/07/09 – 08/06
話数: 5話
あらすじ
ある日の放課後。
イントロダクション|時をかける少女|日本テレビより引用
理科実験室でラベンダーの香りをかいでから、
少女は「時を自在に超える能力」を身につけた。
そこから起こる不思議な出来事・・・
繰り返す毎日・・・
そして、未来からやってきた少年に抱く、
初めての「恋心」。
きっと、今年は忘れたくない「夏」になる。
レビュー
このレビューは黒島結菜版をはじめとした、歴代『時をかける少女』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
細田守が残した夏の爽やかさ
半世紀以上の長い歴史を持つSFジュブナイル小説『時をかける少女』。他に類を見ないほどに映像作品が繰り返し作り続けられており、今回のテレビドラマが、映画とドラマを合わせて9度目の映像化となります。
大まかな設定は共通しつつも、作品ごとでストーリーや世界観は全く異なるのが特徴的。姿かたちを自由に変化させながら、時かけという物語は、時空を超えて語り継がれてきたのです。
2016年に製作されたこのドラマは、24時間テレビとオリンピック中継の放送が同時期に決まっていたので、初めから全5話の予定でした。1994年放送の内田有紀版も同じ話数であり、変則的な番組編成のときに扱える長さの原作なのが分かります。おそらくドラマの題材に選ばれた理由の一つと思われます。
時かけと言えば、若手俳優の登竜門として知られています。これまでの映像作品でも、そうそうたる俳優陣が主演を務めてきました。今作に関しては特に、メインキャラクター3人のキャスティングが素晴らしく、全員がハマり役と言っても過言ではありません。
主人公・芳山未羽を演じるのは、当時カルピスウォーターのCMなどに出演していた黒島結菜さん。後にNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』(2022)に主演する彼女は、本作でも天真爛漫な女子高生を見事に演じています。
深町翔平ことケン・ソゴルを演じるのは、アイドルグループSexy Zoneのメンバーである菊池風磨さん。菊池さんらしさ溢れるコミカルな演技が光っており、現代の生活を無邪気に楽しんでいるさまが表現されていました。
そして未羽の幼馴染である浅倉吾朗を演じるのは、『仮面ライダードライブ』(2014-15)の主役も記憶に新しかった竹内涼真さん。文武両道で、クラスの皆に頼られる。そんなハイスペック好青年を演じさせたら、当時の彼の右に出る者はいませんでした。
2006年の細田守監督版は、夏の東京を舞台にしていました。同じく夏を描いたこのドラマの作中には、花火や夏祭りといったイベントがあり、かなり「夏」を感じさせられます。静岡県の海に近い街が舞台に設定されているのも、夏らしい解放感を加速させています。
オープニングで流れるAKB48の『LOVE TRIP』は、夏に似合う疾走感のある曲で、この世界観にピッタリ。またオープニング映像に使われている、小道具やカメラのレンズ越しに映る写真が毎回異なっており、こだわりが込められているのが伺えます。
未来人ケン・ソゴルが、元の時代へ戻るための薬を無くした場面から作品は始まる。高校生・深町翔平として現代に潜入する彼。薬の調合中に、誰かが部屋に向かってくる気配を感じ、急いでロッカーに隠れる。理科準備室の「あの場面」を彼側の視点から映し出した、第1話の冒頭は新鮮でした。
つまり深町が未来人である事実は、1985年の南野陽子版と同じように、冒頭の時点で視聴者に明らかにされています。そのためサスペンス的な要素は無く、明るいラブコメディとなっています。
ひと夏の眩しい青春物語へ
数学の授業で先生に当てられたり、美術の授業では石膏像を落としたり、最悪な一日を経験する未羽。頭上に植木鉢が落ちてきた瞬間、時間が巻き戻り、ケガを回避できた。なぜかタイムリープ能力を手にした彼女は、前日に戻って、再び一日をやり直す。
王道的なラブストーリーが繰り広げられる今回の時かけは、未羽・翔平・吾朗の三角関係を主軸に物語が進んでいきます。明確な三角関係を描いている点は、内田版と同じ。しかし季節柄やキャラの明るさも相まって、今作には突き抜けるような爽やかさがあります。
自由恋愛がない時代に生まれ、現代で「恋」に興味を抱いた翔平は、恋愛マニュアル本を読み込んでいる。未羽を好きになった彼は、吾朗に宣戦布告をした後、彼女の隙をついてキスをする。
というのも吾朗は、幼い頃から密かに想いを寄せていた。ただし一歩を踏み出せずにいて、未羽と翔平のやり取りを後ろから寂しそうに見つめていた。積極的に行動する翔平に先を越される吾朗の様子が、ひたすらに不憫で切ないのです。
高校最後の文化祭で出し物をやりたい3人は、一緒にタイムリープする。『ロミオとジュリエット』を現代的なコメディテイストに脚色した演劇を発表。ハプニングに見舞われ、予定通りの終わり方ではなかったが、結果的には楽しい気持ちで終わることができた。
その打ち上げで未羽に公開告白をする翔平。顔に悔しさを滲ませる吾朗は、2人を直視できない。付き合いはじめた彼らがデートを楽しむ一方、吾朗は進路について両親と喧嘩し、海辺で静かに佇んでいた。その対比が、見ていて本当に辛かったです。
カラオケに行き、夜の学校に忍び込んでプールに入り、砂浜で朝まで話し込む。3人で過ごした最高の一日が終わってほしくない。だけど時間は決して止められない。そんな時間の残酷さ、すなわち青春時代の有限性が表現されていました。
高橋克実さん演じるお好み焼き屋の三浦は、7年前に未来からやってきた。偶然出会った由梨に惚れた彼は記憶を改変し、彼女と子供とともに暮らしている。しかし未来人は早死にするため、未羽に懇願し、7年前の出会いを無かったことに。それにより現在は、すっかり変わってしまう。
薬の効力が切れ、過去に移動できなくなった未羽は、翔平が無くした薬の入れ物を見つける。そこに微かに残った香りを頼りに、全ての発端となった理科準備室へ。3人で過ごした夏の思い出の数々がフラッシュバックするも、煙となり淡く消えていくのだった。
二つの物語のハイブリッド
2010年公開の仲里依紗版によって、時かけが内包している二つのストーリーが浮き彫りになりました。小説から脈々と受け継がれてきた物語と、細田版が打ち出した新たな物語。本作で特筆すべきなのが、どちらの要素もふんだんに盛り込まれている点です。
まず細田版からの要素と考えられるのは、夏という舞台設定や主人公の明るい人物造形、短いスパンのタイムリープを繰り返す面白さなどが挙げられます。加えてCM明けに毎回、赤い文字で時刻が表示されるのも、細田作品の演出のような印象を受けました。
第1話で未羽は能力を利用して、幻の深海魚の発見を横取りしたり、火事の予言動画を投稿したりする。世界から注目を集める傍らで、アイドル志望の同級生が虐められている現場を目撃。七夕祭り当日には、警察から取り調べされるはめに。気ままに歴史を改変した紺野真琴が、周囲に迷惑をかけた展開と似ています。
同じく第1話で、未羽は吾朗から告白を受ける。突然の出来事に戸惑った彼女は、祭りの前に戻って回避しようとするも、その度に告白されてしまう。この展開も、真琴が劇中で行った失敗と一致します。
さらに第2話には、自転車のブレーキが壊れて悲劇的な運命を迎える女子高生が登場。細田版のクライマックスを連想させるエピソードです。
それらとは対照的に、薬の材料に使われるラベンダーは、原作小説をはじめとした多くの作品で使われてきた象徴的なアイテムです。吾朗の実家の近くで起きた火事や、そこにやってきた翔平のパジャマも同様に、時かけではお馴染みの光景でしょう。
また翔平は、「子供の頃、襲い掛かる犬から吾朗が助けてくれた」という未羽の過去を、自分との思い出に書き換えた。アルバムに翔平の写真が存在しないことに気づいた彼女が、その正体を疑い始めるあたりも原作とリンクします。
ともあれほとんどの映像作品で、写真がキーアイテムになっている時かけ。翔平が持っていた写真集『夏を知らない君へ』と、未羽が作ったアルバム『恋を知らない君へ』が、今作では象徴的に出てきます。どちらからも「時間を切り取って映し出す」といった、写真の痛々しい側面が伝わってきました。
そして今作のオリジナリティと言えるのは、ボート部をケガで辞めた主人公が、何となく写真部に所属している点。当初は被写体を上手く撮れなかった未羽でしたが、最終的にはカメラに楽しみを見出します。彼女がやりたいことを見つけ出し、明るい未来を想起させるラストには爽快感がありました。
時かけ映像作品で一貫して描かれているのは、少年少女の成長であり、未来への希望です。非常に普遍的なテーマを扱った物語ゆえに、これからも新しい『時をかける少女』が作り続けられていくのではないでしょうか。
最後に
余談ではありますが、タコライスやゴーヤチャンプルー、パエリアなど作中に出てくる料理がどれも美味しそう。これも各話の見どころの一つと言えます。
原作者の筒井さん曰く「銭をかせぐ少女」。その長い歴史を概観することで見えてくるものもあると思います。ただし制作会社や監督がバラバラなため、コレクション的な商品を販売するのは現実的とは思えません。それでも切実に欲しいのです。
2022年時点で最も新しい『時をかける少女』の映像化。ぜひとも観ていただきたいです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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