スパイダーマンを愛する全ての人への贈り物。
作品情報
マーベル・シネマティック・ユニバース第27作にして、2017年に始まったトム・ホランド主演「スパイダーマン」シリーズ3作目。全世界に正体が知られた事実を変えようと試みるピーターに、並行宇宙のヴィラン達が襲い掛かる。前2作と同じく、ジョン・ワッツが監督を続投。
原題: Spider-Man: No Way Home
原作: スタン・リー / スティーブ・ディッコ
出演: トム・ホランド / ゼンデイヤ / ベネディクト・カンバーバッチ ほか
監督: ジョン・ワッツ
脚本: クリス・マッケナ / エリック・ソマーズ
日本公開: 2022/01/07
上映時間: 148分
あらすじ
ピーターがスパイダーマンだという記憶を世界から消す為に、危険な呪文を唱えたドクター・ストレンジ。
映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズより引用
その結果、このユニバースに、ドック・オク、グリーン・ゴブリン、エレクトロ、サンドマン、リザードといった強敵たちを呼び寄せてしまう。マルチバースが現実のものとなってしまったのだ。
彼らがこのユニバースに同時に存在することだけでも既に危険な状況に。
ストレンジは、ピーター、MJ、ネッドに協力を求め、彼らを各々のユニバースに戻そうと試みるが、
次々とスパイダーマンに襲い掛かかるヴィラン達。その脅威は、恋人のMJ、親友のネッド、さらにはメイ叔母さんにまで。
最大の危機に晒された、ピーター。このユニバースを守り、愛する人達を守る為に、彼に突き付けられる<選択>とは――
レビュー
このレビューは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』をはじめとした、歴代スパイダーマンシリーズおよび関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
スパイダーマンがMCUに合流するまで
世界興行収入が17億3,888万9,808ドル(約2,000億円)を突破し、歴代興収ランキングで6位につけるなど、記録的なヒットを飛ばす『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。本国アメリカでは2021年12月17日に公開され、日本ではそれから約3週間後に封切りを迎えました。
ご存知マーベルが生んだスーパーヒーロー・スパイダーマンが活躍する最新映画。2008年からスタートした「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」フェーズ4の4作目にして、通算では27作目にあたります。
MCUとは、様々なヒーローを同一の世界観で共演させ、そのクロスオーバーにより物語を展開する映画シリーズ。『アベンジャーズ』(2012)のヒットを皮切りに人気を獲得していき、いまや世界最大のコンテンツになっていると言っても過言ではありません。
ディズニー傘下に入り、NetflixやDisney+でのドラマにも広がりを見せるMCUは、2022年現在も世界観を拡大し続けています。
作品内に存在するヒーローたちの中でも、特殊な立ち位置に置かれているスパイダーマン。アイアンマンやキャプテン・アメリカとは異なり、ディズニーではなくソニーがキャラクターの権利を保有しているのです。
そのためスパイダーマンの映画としては、サム・ライミ監督による『スパイダーマン』三部作とマーク・ウェブ監督による『アメイジング・スパイダーマン』二作が既に製作されていました。権利的な事情により、MCUには合流しないと考えられていました。
『アメイジング~』シリーズの続編が予定されていた2015年、ソニーはディズニーとの提携を発表。当シリーズを打ち切り、新キャストによるスパイダーマンがMCUに加わるという内容は、ファンを驚かせました。翌年公開『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』にて、晴れて他のマーベルヒーローたちと共演するにいたります。
『ノー・ウェイ・ホーム』が公開されるまで
MCU27作目であるとともに、トム・ホランド版スパイダーマンの3作目に位置づけられているこの作品。『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)と『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)の続きであり、「ホーム」三部作の完結編と銘打たれています。
『~ファー・フロム・ホーム』のミドルクレジットには、J.K.シモンズさん演じる「デイリー・ビューグル」編集長が登場。サム・ライミ監督版『スパイダーマン』のレギュラーキャラであった彼が出たことで次回作は、別の世界線とされていたサム・ライミ監督版との連動が考察されていました。
しかし前作公開直後の2019年8月、ソニー・ディズニー間の交渉決裂により、スパイダーマンのMCUからの離脱が報じられました。次回作の製作は難しいと思われましたが、その一ヶ月後に両社は再契約を発表。この時点で既に、『~ノー・ウェイ・ホーム』完成にいたるまでの道のりの険しさが伺えます。
2020年12月、過去シリーズでドック・オクを演じたアルフレッド・モリーナさんと、エレクトロを演じたジェイミー・フォックスさんが次回作に出演することが明らかに。これによりサム・ライミ監督版やマーク・ウェブ監督版とのリンクが現実味を帯びてきました。
2021年2月に正式タイトル、5月には公開日が発表。徐々に詳細が明かされる中で、過去シリーズの主役である、トビー・マグワイアさんとアンドリュー・ガーフィールドさんの出演がまことしやかに噂されていました。しかしアンドリューはその報道を頑なに否定し、あくまで噂の域を出ませんでした。
11月に公開された予告では、過去シリーズに登場したヴィラン5人のビジュアルが解禁されました。日本版キャッチコピーは、「想像しろ。超えてやる。」それを体現するかの如く、劇中には観客の度肝を抜くサプライズが用意されていました。
本作のエンドロールには「映画化への道を切り拓いた アヴィ・アラドさんに感謝を」といった一文が記されています。アヴィ・アラドさんはマーベル・スタジオの設立者であり、製作・プロデューサーとして3つのスパイダーマンシリーズ全てに携わってきました。
つまり彼なくして、三人のピーター・パーカーや数々のヴィランたちは生まれていません。ソニー制作の過去シリーズとMCUの邂逅は、数十年にわたる彼の功績と、今作への協力によって成立したことが、この一文に表れています。
『ノー・ウェイ・ホーム』関連作品一覧
多くの作品のキャラや設定が引用されている本作。少なくとも7本の映画を観ていないと完全には理解できないストーリーに対して、鑑賞にあたっての前提条件が多いのはいかがなものか、という意見も挙がっています。
マーベル・スタジオが推し進める世界観の拡充。今作では独立した世界観だった複数の映画を、遡って同一のユニバースに組み込みました。コンテンツにおける禁じ手とも言えるこの手法は、今後の映画業界で賛否が分かれそうな部分ではないでしょうか。
ただしこの手法を肯定的に捉えると、様々な文脈が絡み合っているため、関連作品を観ているほど楽しめる一作に仕上がっていると評せます。ここでは『~ノー・ウェイ・ホーム』の鑑賞にあたって観ておくべき作品を、優先度順に羅列します。
鑑賞必須
- 『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)
MCU版スパイダーマン1作目。トム・ホランド演じるピーター・パーカーは、同級生リズへ片思いを寄せながら、ヒーロー活動を続けていた。ただし彼女の父親だったヴァルチャーの悪事を暴いたことで、彼女とは離ればなれに。
- 『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)
MCU版スパイダーマン2作目。トニー・スターク亡き後、ピーターは世間から求められるヒーロー像に葛藤する。マルチバースから来たと嘯くミステリオを倒すも、彼女のMJや親友のネッド、メイ叔母さんにしか伝えていなかったその正体が全世界に晒されてしまう。
- 『スパイダーマン』(2002)
サム・ライミ監督版スパイダーマン1作目。トビー・マグワイア演じるピーター・パーカーは、同級生のMJに片思いをしていた。親友ハリーの父親に取り憑いたグリーン・ゴブリンとの激闘の中で、危険に晒される彼女を救い、二人の関係は親密になっていく。
- 『スパイダーマン2』(2004)
サム・ライミ監督版スパイダーマン2作目。MJとの日常生活とヒーロー活動との両立に悩むピーターは、人工知能に意識が乗っ取られたオクタビアス教授「ドック・オク」と戦うはめに。ピーターの言葉で意識を取り戻した彼は、核制御装置と共に川に沈んでいった。
- 『スパイダーマン3』(2007)
サム・ライミ監督版スパイダーマン3作目。ベン叔父さんを殺害した張本人であるサンドマンに出会い、激昂するピーターは、謎の生命体「シンビオート」に憑かれてしまう。やがて自己を取り戻した彼は、ハリーとの共闘の果てに、サンドマンとヴェノム(≒シンビオート)を打ち破る。
- 『アメイジング・スパイダーマン』(2012)
マーク・ウェブ監督版スパイダーマン1作目。アンドリュー・ガーフィールド演じるピーター・パーカーは、グウェイン・ステイシーと交際を開始。彼女の協力もあって、コナーズ博士扮するリザードを倒す。しかし身の危険を案じた彼女の父親に、彼女との接触を禁じられるピーターだった。
- 『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)
マーク・ウェブ監督版スパイダーマン2作目。グウェインとの交際を続けるピーターは、スパイダーマンのファンと称するエレクトロと対峙。その戦いに巻き込まれたグウェインは、帰らぬ人となる。ピーターは悲しみに暮れながらも、街のために戦い続ける覚悟を決める。
できれば観ておきたい
- 『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)
MCU版スパイダーマンのデビュー作。アイアンマンことトニー・スタークにスカウトされたピーターは、キャプテン・アメリカらとの戦いに参入する。
- 『ドクター・ストレンジ』(2016)
『~ノー・ウェイ・ホーム』に登場するドクター・ストレンジの単独映画。天才医師のストレンジが、魔術師「ドクター・ストレンジ」になるまでを描く。
- 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)&『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)
それまでのMCUの集大成であり、その後のMCU世界の前提となる前後編。インフィニティ・ストーンを集めたサノスにより、地球の人口の半分が消失。残されたメンバーの尽力により、5年の時を経て蘇ったアベンジャーズと、サノスとの最終決戦が繰り広げられる。
観ておくとさらに楽しめる
- 『デアデビル』(2015-2018)
Netflixにて配信されたテレビドラマシリーズ。シーズン3まで製作されたが、2018年に打ち切りが発表。マット・マードックは盲目の弁護士としてニューヨークで働く一方、視覚以外の超人的な五感を活かしてデアデビルとしてヒーロー活動をする。
『~ノー・ウェイ・ホーム』序盤のワンシーンに、マット・マードックが弁護士の姿で登場。本編には絡まないものの、今後のMCU作品でデアデビルが活躍する未来を予感させる場面です。
- 『ヴェノム』(2018)&『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021)
ソニー・ピクチャーズが配給する「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)」の作品。サンフランシスコの記者エディ・ブロックは、地球外生命体・シンビオートに寄生され、ヴェノムとして戦いに赴くことになる。
『~レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のエンドクレジットには、トム・ホランドさんが出演しており、本作とのリンクが予想されていました。実際は本編ではなく、ミドルクレジットにのみエディ・ブロックが登場。ソニーとディズニーの関係が良好だからこそ実現した、奇跡的な映像です。
起:正義の制裁を下す市民
さてようやく、ストーリーの内容について触れていきます。映画の成り立ちとは対照的に、話の流れは非常に明快。綺麗な起承転結になっています。
前作『~ファー・フロム・ホーム』のミドルクレジットから地続きの本作。デイリー・ビューグル編集長による、スパイダーマンの正体を告げるニュースが流れる。そこから始まる第一幕を通して、ピーターたちが経験する絶望感がひしひしと伝わってきます。
MJとともに街中を逃げ回るピーター。自宅に到着すると、何台ものヘリが周辺を囲んでおり、テレビ中継まで行われていた。その後もテンポ良く怒涛の展開が続き、瞬く間に事情聴取へ。そこでは正義のヒーロー・ミステリオを殺害した理由を問われるのだった。
ピーター、MJ、ネッドの仲良し三人は大学でも一緒に過ごすため、マサチューセッツ工科大学(MIT)合格を目指し、勉強に励む。しかしスパイダーマンとその友人であることを理由に、不合格を伝えられる。
この一連の流れは、ヒーローと市民の危うい関係性が表現されています。アイアンマン亡き後、その幻影をスパイダーマンに重ねる市民の様子、そしてその声に答えるようにミステリオが出現し、市民に歓迎されるさまが、前作では映し出されました。
今作でも、キャプテン・アメリカのシールドを持たせる工事が行われている自由の女神像が、戦いの舞台の一つになっています。アイアンマンとともに、ヒーローの過剰な神格化が行われている象徴であり、前作から引き続き描かれる「ヒーローを求める市民」の表象と言えます。
さらにそれとは対照的な「ヴィランに制裁を下す市民」も表現されているこの作品。SNS時代だからこそ浮かび上がる「民の声」は、時に暴力性を帯び、無意識的な加害者を生み出します。どちらも現実とは切り離せない現代的な問題であり、ハッとさせられる展開に思いました。
「そうだ、ストレンジに時を戻してもらおう」と、彼の邸宅を訪れるピーター。タイムストーンを手放しており、時を戻せないストレンジは、代替案として危険な呪文の使用を始める。
その内容は、スパイダーマンの正体を全員の記憶から消すというもの。全員と知って焦るピーターは、MJ、ネッド、メイ、ハッピー、以前から正体を知っている全ての人、といったように何度も呪文を中断させる。集中を削がれたストレンジは、途中で呪文を中止した。
承:ヴィランたちへの「救済」
ストレンジのアドバイスで、大学の偉い人に直接会いに行くピーター。その最中、彼の前にドック・オクが立ちはだかる。ただしスパイダーマンスーツの一部を取り込んだことが仇となり、自身のアームのコントロールをスパイダーマンに奪われてしまう。
間髪いれずに、グリーン・ゴブリンが襲来。直後ストレンジの地下室に転送されると、そこにはドック・オクとリザードが囚われていた。どうやら呪文を途中で止めた影響で、「ピーターがスパイダーマンだと知る人」を並行世界から呼び寄せてしまったのだそう。
MJとネッドにも協力を仰ぎ、エレクトロとサンドマンを捕獲。本来の性格を取り戻し、グリーン・ゴブリンの仮面から逃げ出したノーマン・オズボーンも、メイを通じてピーターと接触する。
マルチバースから来た5人を集めたストレンジは、ヴィランたちを元の世界へ戻す儀式を始める。そこでスパイダーマンに倒される運命にある彼らを救いたいと思ったピーターは、ストレンジと戦い、彼を鏡世界に閉じ込める。
ここから分かるのが、この物語のゴールがヴィランの「Kill」ではなく「Cure」である点。
本作に登場する過去シリーズのヴィランは、力が暴走した、もしくは偶発的な事故により超能力を得た人々。グリーン・ゴブリンは仮面の意思に取り込まれ、ドック・オクも人工知能に意識が取り込まれ、サンドマンは不慮の事故で怪人と化した。
リザードは不完全な薬により怪人化し、エレクトロは不慮な事故で力を手に入れた。過去シリーズでは彼らを倒す結末を迎えたが、今作では彼らを治療する結末が用意されています。過去シリーズへの救済に着目している点には、脚本のスマートさ、そしてやさしさが感じられました。
『スパイダーマン3』のヴェノムや『アメイジング・スパイダーマン2』のライノが出てこないのも、明確な悪意を持ったヴィランである彼らは、治療の対象に当てはまらないのが要因だと考えられます。
ピーターは彼らを正常に戻す特効薬を作り出し、オクトパスの治療に成功する。グリーン・ゴブリンも成功したように見えたが、やがて本性を現す。息を合わせるように、他のヴィランも暴れ出す。激しい戦闘の中、グリーン・ゴブリンの攻撃を受けたメイは、「大いなる力には、大いなる責任が伴う。」その言葉を残して命を落とした。
転:二次創作的なサプライズ
夢の実現
大切な人を亡くし、絶望の淵に立たされるピーター。彼に会いたいネッドは、ストレンジから奪った指輪を使ってピーターを呼び寄せる。
そこにやってきたのは、アンドリュー・ガーフィールドさん演じるピーター・パーカー。自分たちの知るピーターに会うため、再び挑戦するネッド。すると今度は、トビー・マグワイアさん演じるピーター・パーカーがやってきた。
封切りされて明らかになったのは、トビー・マグワイアさんとアンドリュー・ガーフィールドさんの客演です(以下、混同を避けるため、トム・ホランド演=ピーター1、トビー・マグワイア演=ピーター2、アンドリュー・ガーフィールド演=ピーター3と区別します)。
アンドリューに対しては、何度も質問されても口を滑らせなかったことへの感動を、トビーに対しては、46歳にしてよく出演してくれたという感慨を抱きました。ネタバレでお馴染みのトムが口を開かなったことにも感謝。また吹替を担当した声優陣もカムバックしている点も見逃せません。
異なる世界のスパイダーマンが共闘する、実写映画版『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)的なストーリー。映画後半は、ファンの願望や妄想を具現化したような、二次創作的な物語が展開されます。
高校の屋上でピーター1を見つけたネッドとMJは、熱い抱擁をする。「この苦しみは他人には分からない」と突き放す彼に対して、同じような喪失を経験しているピーター2とピーター3は慰めの言葉をかける。他人であっても、自分ごとのように感じるのだった。
二次創作的やり取りの妙
各々の心に刻まれているあの言葉を思い出し、ヴィランに立ち向かう決意をする三人のスパイダーマン。実際に戦ってきた彼らは、協力して特効薬を開発し始める。ここからは、お互いの世界観の差異を活かしたコメディが次々と繰り出されます。
- 親友について
「二人には親友がいるの?」と質問するネッド。「俺に襲い掛かってきて、腕の仲で亡くなったんだ」とのピーター2の答えを聞き、複雑な気持ちでその場を去る。その後ピーター1に「俺は裏切ったりしないからね」と声をかける様子は可愛らしい。
- 恋人について
顔を寄せ合うピーター1とMJを、そっと見守る二人のピーター。ピーター3には彼女はおらず、ピーター2はちょっと複雑な関係だが、お互いにとって丁度いい関係を築いているのだそう。二人の「その後」の生活が垣間見えて、微笑ましい。
- 当時の撮影の裏側について
特効薬を作り終え、ピーター1はヴィランたちを誘き出す。その間に戦いの準備をする他の二人。兄弟のような存在ができて嬉しいと語るピーター3は、背中が凝っているピーター2の身体を伸ばしてあげる。この場面は、シリーズ降板の要因にもなり得たトビー自身の腰痛に触れた、メタ的なやり取りと思われます。
- ヴィランについて
ピーター1も合流し、今まで戦ってきたヴィランの話題に花が咲く。ピーター1のサノス、ピーター2の宇宙から来た黒い生命体(ヴェノム)という回答を聞き、ピーター3はサイの着ぐるみを身につけたロシア人(ライノ)と、自信なさげに答えるのでした。
- 能力について
三人の中で唯一、手首から糸が出せるピーター2。自作したウェブシューターを使って糸を出している他の二人は、「息を吸うのと同じようにできる」その能力に驚きます。
『アメイジング・スパイダーマン』への敬意
団体戦に慣れていないため上手く連携できない三人。協力して一人ずつ処理する作戦を決め、三人同時に駆け出し、そして一斉に決めポーズをとる。このシーンは予告にも使用されていますが、ピーター2とピーター3が編集で消されています。
夜空に浮かぶ月を背景にスウィングしながら、ピーター3→ピーター1→ピーター2の連携によりサンドマンを治療。ドック・オクの協力も経て、エレクトロやリザードの治療にも成功した。
色々なネタが入っている今作ですが、中でも『アメイジング・スパイダーマン』シリーズに対するリスペクトが明確に込められています。三部作で完結したサム・ライミ版、大ヒットを飛ばすMCU版と比べると、不遇なシリーズと言えます。
先述のヴィランに関する話題のシーンにて、自分を卑下するピーター3に対して、ピーター2は「なんてなんて言うなよ。」「きみは素晴らしい。」「You are AMAZING.」といった気の利いた言葉をかける。
また最終決戦に臨むにあたり、ピーター3は他の二人に「I love you guys.」と声をかける。この台詞はアドリブであることが明かされています。シリーズが打ち切られ、良い思い出のみではないだろうに、アンドリューのスパイダーマンへの愛が感じられるこの台詞は、とても感動的でした。
極めつけは、最終決戦の中でMJが鉄骨から落下する展開。ピーター1は彼女を必死に追いかけるも、グリーン・ゴブリンに吹き飛ばされてしまう。彼女を助けたのはピーター3。グウェインを救えなかった彼は、無事に助かったMJを見て、感極まった表情を見せる。
本作の白眉であり、製作陣の『アメイジング~』シリーズへの愛が感じられる名シーンです。
結:「スパイダーマンになる」物語
グリーン・ゴブリンと対峙したピーター1は、怒りにまかせてフルボッコ。ピーター2は彼の暴走を身を挺して制し、暴力では何も解決できないことを諭す。
鏡世界から脱出したストレンジは時を同じくして、さらなる並行世界の融合を危惧していた。マルチバースの融合を止めるため、「自分の記憶を世界中の人々から消し去る」呪文を唱えてもらう、という選択をするピーター1。
ストレンジが呪文を唱えると、スパイダーマンとヴィランたちはそれぞれの世界へ帰還。並行世界の融合も収まった。
とはいえピーターの「家」は消失。まさに「ノー・ウェイ・ホーム」。冬のニューヨーク・ブルックリン、彼はMJが働くドーナツ屋に行くも、彼女には自分に関する記憶はない。ただし大学での生活を始めるネッドとMJを見て、笑顔になるのだった。
雪降る摩天楼を華麗にスウィングするスパイダーマンを映し出し、本編は終了。ちなみにこのラストで身につけているスーツは、ピーターが自作しており、サム・ライミ版とマーク・ウェブ版のスーツを混ぜたようなデザインをしています。
大切な人を亡くし、全ての人から忘れられる。喪失よりも重すぎる自己犠牲は、過去シリーズを超える寂しい結末。スーツのオマージュからも分かるように、今作はピーターが真のスパイダーマンになる物語です。演じたトム・ホランドさんも「スパイダーボーイが、スパイダーマンになる話」であると言及しています。
「ホーム」三部作の1作目を「自分とは何者かを探る」物語、2作目を「周囲から求められる像と自己の乖離に葛藤し、アイデンティティを確立する」物語とするならば、3作目は「スパイダーマンとしての責任を自覚する」物語と位置づけられるでしょう。
おまけ:最速上映で観た感想
2021年1月6日24時、真夜中ながら満席の映画館にて本作を鑑賞しました。そのときの感想を最後に付け加えさせていただきます。
まずデアデビルが映し出されたシーンでは、観客の一部から歓声が上がっていました。『デアデビル』を観ていなかった私は、彼の正体が分からず悔しい思いをしました。
最も歓声が上がっていたのは、二人のスパイダーマンが、リングから登場するシーン。拍手と歓声で劇場が包まれました。その後のコミカルなやり取りには各所で笑いがこぼれており、特にネッドの呼びかけに同時に反応する三人や、ヴィランの話題になる場面では大爆笑が起こっていました。
三人が同時に駆け出して一斉に決めポーズをとる場面や、「You are AMAZING.」、ピーター3がMJを助ける展開。事あるごとに拍手や歓声が上がっていたのが印象的です。私自身は積極的に大声を上げるタイプではないですが、一緒に観ていて楽しい気持ちになりました。
エンドロール突入時や、ミドルクレジットにいたるまで劇場が沸いており、観客のほぼ全員が初見である最速上映ならではのリアクションに思います。公開から時間が経っている場合や、席が埋まっていない会場では得ることのできない貴重な体験でした。
最後に
本編に込められている小ネタやオマージュの数々、もしくはマルチバースや今後の展開に関する考察など、隅から隅まで楽しめるこの映画。
2002年に始まったスパイダーマン映画の系譜を総括した、後にも先にも二度と作られない傑作です。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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