『南くんの恋人〜my little lover』感想:改変を重ねた先の到達点

原作:内田春菊「南くんの恋人」(C)Shungicu Uchida (C)「南くんの恋人~my little lover」製作委員会

『南くんの恋人』映像化の第3弾です。

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作品情報

1986~87年に『月刊漫画ガロ』で連載された内田春菊の漫画『南くんの恋人』を、中川大志・主演でドラマ化。フジテレビの「Mナイト」枠で放送された。身長が15cmになる恋人ちよみを山本舞香が演じており、原作とは異なるオリジナルエンディングが予告されている。

原作: 内田春菊『南くんの恋人』
出演: 中川大志 / 山本舞香 / 秋本奈緒美 / 有森也実 / 角替和枝 ほか
監督: 小中和哉
脚本: 新井友香
放送期間: 2015/11/10 – 2016/02/02
話数: 10話

あらすじ

堀切ちよみは、ダンスと小説執筆に打ち込む明るく元気な高校3年生。同じクラスのクールなイケメン、南瞬一は幼なじみで初恋の仲だったが、南の父親の失踪をきっかけに言葉を交わすこともなくなっていた。ある日、他の女の子と親しげに歩く南を目撃したちよみは、ずっと南のことが好きだったことに気づく。その夜、進路をめぐって両親と喧嘩になり家を飛び出したちよみは、そこで出くわした南に「お前が嫌いになった」と言われ、ショックで駆け出す。嵐の中、ちよみは楽しかった幼少期を思い出し「小さい頃に戻りたい」と強く願う。すると、落雷とともにちよみはなんと小さく(15cm)なってしまう。
小さくなったちよみを偶然見つけた南は、「誰にも知られたくない」というちよみの願いを聞き入れ、自宅に連れて帰る。こうして始まった秘密の同棲生活――。次第にその距離を縮めていく2人だったが、果たしてちよみは元の姿に戻ることができるのか!?

イントロダクション | 南くんの恋人~my little lover オフィシャルサイトより引用
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レビュー

このレビューは『南くんの恋人〜my little lover』をはじめとした、歴代『南くんの恋人』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

変わる南くんと変わらない恋人

1985年に第1話が発表された内田春菊さんの漫画『南くんの恋人』は、約1年間『月刊漫画ガロ』で連載されました。平凡な高校生の南浩之と、突然に身長が小さくなった彼女の堀切ちよみの同棲生活が、可愛らしいタッチかつ生々しく描かれます。

そんな同作を原作に、1990年に石田ひかりさん主演の単発ドラマが、続く1994年に高橋由美子さん主演の連続ドラマが製作されます。この連続ドラマが人気を集め、2004年に深田恭子さんと二宮和也さんのW主演で再び連続ドラマ化されました。

何度も映像化されることにより、世代を越えて語り継がれている『南くんの恋人』。2012年からは、20年以上ぶりの続編『南くんは恋人』が『Cocohana』で半年間連載されました。長年にわたり親しまれている内田さんの代表作の一つと言っても過言ではありません。

作品が描かれたのは、1980年代。実写化されるたび、キャラクター設定や展開がそれぞれの時代に合った雰囲気へと調整されているのが特徴的です。高橋由美子版はアメリカドラマのような雰囲気漂うファンタジーラブコメ、深田恭子版は平成日本の典型的な恋愛ドラマでした。

4回目の映像化にあたる『南くんの恋人〜my little lover』も例外ではありません。小中和哉さんが監督を務め、新井友香さんが脚本を執筆した今作は、2人がタッグを組んだ『イタズラなKiss2~Love in TOKYO』(2014-15)に通じるティーン向け王道ラブコメに改変されています。

医大を目指して日々勉強している成績優秀な南瞬一。ダンス部に励む傍ら「月兎ミカエラ」の名でネット上に小説を投稿している堀切ちよみ。かつて初恋の相手同士だった幼馴染2人は、高校3年生になっても隣に住んでいるものの、言葉を交わすことは無くなっていた。

瞬一は剣道もできる文武両道なツンデレイケメンです。原作のおっとりした「南くん」とは似ても似つかぬからなのか、名前が変更されています。演じるのは、同時期に放送された『監獄学園-プリズンスクール-』(2015)でも主演の中川大志さん。容姿端麗なだけでなく、人のために自分を犠牲にして行動する役柄が似合っていました。

「南くん」は時代の潮流を取り入れながら、大胆に作り変えられてきました。対して恋人・ちよみの名前は過去の映像化から一貫しており、キャラ造形も似ています。これは個人的に、原作から続く「ちよみ像」に製作陣が囚われていることの現れだと思いました。

『13歳のハローワーク』(2012)で中川さんと共演した山本舞香さんが好演している本作のちよみ。過去の映像化から連想されるぶりっ子というより、明るくわがままな子どもといった印象が強く残ります。ただしこの要因は彼女の台詞回しが、いわゆる子役っぽく聞こえるからかもしれません。

とある雷雨の夜、両親と喧嘩して家を出たちよみは、雨宿りしている最中に楽しかった幼少期を思い出し「小さい頃に戻りたい」と願う。すると翌日、目が覚めたら彼女の身長は15cmになっていた。行方不明になった彼女を発見した瞬一と共に、彼の部屋で同棲を始める。

初恋が成就するまでの物語

瞬一とちよみは、中学時代に彼の父が家を出て以来、関係が疎遠になっていった。つまり互いが付き合っていない状態から物語は始まります。これこそ最大のオリジナル要素であり、作品屈指の見どころと言えます。

この改変により瞬一の感情の変化が丁寧に描かれており、素直になった2人が心を通わせていく過程が、より飲み込みやすいものになっていました。反発を繰り返しながらも自分たちの本当の気持ちに気付いていく展開は、まさに王道ラブコメを読んでいるようで楽しかったです。

中川さんと山本さんは、別々の撮影であっても現場で一緒に芝居をしたのだそう(※1)。またCG技術の発達により、過去の映像化と比べて合成への違和感が格段に減っていました。2人の関係性が主軸の今作において、そうした映像への違和感がほとんど無かったのは素晴らしかったです。

※1:中川大志はツンデレ?山本舞香は妄想しちゃう?新「南くんの恋人」カップルの胸キュントーク モデルプレスインタビュー – モデルプレス参照

CG合成に加えて時代の変化を感じさせるのが、スマホやタブレットです。メールを通じてやり取りすることで、周囲にバレずにコミュニケーションがとれるようになっています。特筆すべきは、ちよみが両足で文字を打つ姿。タブレット上で踊っているような彼女が、とても可愛らしかった。

原作はほとんど2人だけで話が完結していますが、今回の映像化には多くのキャラクターが出てきます。例えば「南くん」を誘惑するクラスメイトとして、中山絵梨奈さん演じる野村さよりが登場。過去の映像化と同様に、野村さんが出てくるシーン専用のBGMがあるのが面白い。

しかしながら彼女は瞬一への圧が比較的強くなく、結果的にそれほど彼にとっての脅威ではありませんでした。彼女よりも瞬一とちよみの関係を邪魔していたのが、オリジナルキャラである高木睦。鈴木身来さんが見事に演じていました。

佐々木萌詠さん演じる御木本あみと高木とちよみは仲良し3人組だったが、高木はちよみに片想いしていた。彼女が行方不明になった後、彼女を模倣したフィギュアを作り、胸ポケットに入れて生活する。劇中における瞬一の恋敵ではあるものの、瞬一のスペックが高すぎるため対等な相手になっていなかったのが悲しい。

ちよみの両親は、カフェ「花泥棒」を営んでいる。ダンスのワークショップのため東京に行っていると説明されたものの、日を追うごとに彼らの心配は増すばかりで、夫婦喧嘩もしてしまう。

出来事自体は『ミッシング(2024)』のように深刻なので、不安になるのも当然でしょう。前2作のちよみの家族は1人だけであり、こういった描写は無かったため、これまでは劇中で起きていることの事件性が際立っていなかったのだと思い知らされました。

また瞬一に関しては、有森也実さん演じる母・笑子と角替和枝さん演じる祖母・登美子の3人暮らし。全編を通して、彼らを含めた大人たちが瞬一とちよみに向ける純粋な愛情が感じられるとともに、その演技力によってドラマとしての安定感が増していると思いました。

辿り着いた大団円

中学生のときに父が失踪して以降、瞬一は喪失感に苛まれるとともに、家族に対する過度な責任感を抱いてきた。物語終盤に彼は、ようやくそれらの感情から解放されます。肩の荷が下り、表情が柔らかくなる彼の変化には感動させられました。

放送開始当初から今作は、結末を原作と違うものにすると謳っていました。物語の鍵となるのが、ドラマオリジナルの架空の伝説「一寸姫」。この伝説を信じている登美子から、幼い頃の瞬一とちよみはその存在を聞かされていた。

一寸姫伝説に倣い「曙岬」に行き、日の出を拝んだ2人。しかしちよみは元に戻らず、帰り道で交通事故に遭ってしまう。これは過去の映像化と同じく、原作の最終話に倣った定番の展開です。その後、瞬一は病院に運ばれ、ちよみは家族に正体を明かす。

昏睡状態だった瞬一だが、ちよみにキスをされた途端に目を覚ます。さらに再びキスをしたところ、ちよみが元の大きさに戻る。その直後に双方の家族が病室に入ってくるのですが、裸のちよみと熱くキスをしている瞬一を目撃してしまうのは、かなり気まずそう。

ちよみが元の姿に戻るのは、今回が初めてです。キスで目覚めるのはグリム童話『眠れる森の美女』のようであり、キスで元の姿に戻るのは『プリンセスと魔法のキス』(2009)のよう。理屈抜きのファンタジックなオチには驚かされました。

しかしながら本編を最後まで観ると、真っ当なハッピーエンドに思えます。というのも原作漫画の結末は、ちよみが小さい姿のまま交通事故をきっかけに命を落とす、という衝撃的なものでした。

その後作られたのは、小さい姿のままだが幸せな気持ちで命を落とす高橋由美子版、小さい姿のまま2人で生き続ける深田恭子版、そして本作。この順に観ると、まるでアニメ『STEINS;GATE』(2011)後半の主人公の感覚を味わっているようでした。過去の実写ドラマを知っていればこそ、今回の大団円をより嬉しく感じられるのかもしれません。

エピローグでは、深田恭子版にもあった家族写真にまつわるエピソードが語られます。他にもちよみに告白するクラスメイトの存在など、過去の映像化を彷彿とさせる点が随所に見受けられるのも、過去の実写ドラマを知っていると楽しめるポイントではないでしょうか。

台本を読んだ内田さんは、「現実にはむずかしいからこそ愛を誓うことが大切なのだということを痛感し、しみじみと感動(反省を含む)しました。とてもロマンチックで感動的な仕上がりになるはず」とコメントしています(※2)。

※2:「南くんの恋人」4度目のTVドラマ化!南役は中川大志、ちよみ役は山本舞香 – コミックナタリーより引用

高校卒業後に結婚した瞬一とちよみの結婚式が、エピローグでは描かれます。ご都合主義な展開やツッコミどころはあったものの純粋に幸せな気持ちにさせられるラストであり、何度も映像化を重ねてきたからこそ初めて辿り着いたロマンチックな大団円と言えるでしょう。

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最後に

テレビ朝日系列で放送中の『南くんが恋人!?』やこれまでの映像化作品と合わせて、ぜひ観ていただきたい一作です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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