深田恭子版『南くんの恋人』感想:時代の限界を映すファンタジー

(C)2004 内田春菊/テレビ朝日

『南くんの恋人』映像化の第2弾です。

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作品情報

1986~87年に『月刊漫画ガロ』で連載された内田春菊の同名漫画を、主演・深田恭子でドラマ化。テレビ朝日が再び映像化し、同局系列「木曜ドラマ」枠で放送された。W主演を務める二宮和也が恋人「南くん」を演じ、中園ミホが脚本を担当した。

原作: 内田春菊『南くんの恋人』
出演: 深田恭子 / 二宮和也 / 田辺誠一 / 西村雅彦 / 名取裕子 ほか
監督: 佐藤嗣麻子 / 新城毅彦 / 木内麻由美 / 大垣一穂
脚本: 中園ミホ / 福間正浩(第5話)
放送期間: 2004/07/08 – 09/16
話数: 11話

あらすじ

高校生カップルのちよみ(深田恭子)と南(二宮和也)は、偶然訪れた中華料理店で未来が見えるという“フォーチュンクッキー”を食べ、不思議な予言を受ける。そんな中、駅伝部に所属する南は、高校最後の大会で選手に抜擢されるが、走っている途中に急激な腹痛に見舞われ…。

DVD『南くんの恋人 第1巻』パッケージより引用
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レビュー

このレビューは深田恭子版をはじめとした、歴代『南くんの恋人』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

10年ぶりのリメイク

平凡な高校生の南浩之と、1/10サイズに小さくなった彼女の堀切ちよみ。2人の奇妙な同棲生活を描いた漫画『南くんの恋人』は、1985年に第1話が発表された後、翌年から『月刊漫画ガロ』で約1年間連載されました。その後、単行本に描き下ろされた最終話をもって完結を迎えました。

1998年に文庫版、2004年に描き下ろしページを加えた改訂版が刊行されており、完結後も衰えない人気ぶりが伺える同作。『ファザーファッカー』(1993)や「でんこちゃん」でも知られる内田春菊さんの代表作の一つと言えます。

映像作品に関しては、石田ひかりさんと工藤正貴さんを起用した単発ドラマとして、1990年に初めて実写化されます。1994年には、高橋由美子さんが主演した連続ドラマが製作。テレビ朝日系列で20時代に放送された同作は、後日譚が製作されるほど人気を集めました。

原作漫画は可愛らしいキャラクターデザインながら、生々しいポルノ的なシーンやグロテスクな描写が特徴的です。そうした要素を出来るだけ封印した高橋由美子版は、ファンタジックな設定を活かした90年代ならではのラブコメに仕上がっていました。

それから約10年ぶりに、再びテレビ朝日系列でドラマ化された『南くんの恋人』。企画には高橋版のプロデューサーである高橋浩太郎さん、また制作協力にも同作の演出を務めた中山史郎さんと今井和久さんが所属していた「ザ・ワークス」が名を連ねています。

たった10年しか経っていないにも関わらずリメイクされた理由として考えられるのが、主演に抜擢された「深キョン」こと深田恭子さんの圧倒的な存在感ではないでしょうか。今作は高橋版と同じく、深田さんをアイドルのように魅力的に映し出しているのです。

若くしてホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリに輝いた深田さんは、『神様、もう少しだけ』(1998)での体当たり演技で脚光を浴び、以降多くのドラマや映画に出演します。2004年の夏は、後に複数の賞を受賞する映画『下妻物語』(2004)が公開されたばかりのタイミングでした。

深田さん演じる堀切ちよみは、前作のちよみ役・高橋さんに引けを取らないほどのぶりっ子。より強めな口調で喜怒哀楽を表現していたのが印象に残ります。「野村さんのところに行っちゃえ」といった原作からのお決まりの台詞も自然で、ハマり役だと思いました。

幼少期に両親を事故で亡くしたちよみは、祖父の千次と一緒に暮らしていた。ある日、恋人の南進と口喧嘩をした帰り道、漕いでいた自転車のバランスを崩して橋から落下してしまう。彼女が目を覚ますと、身長がたった16cmに縮んでいた。

このように本作では、「南くん」の名前が浩之から進に変更されています。おそらく新たに持ち込まれた駅伝部に所属する設定によるものでしょう。第1話冒頭、高校最後の大会で花の1区に抜擢された進。しかし本番当日、走っている最中に倒れ、最終的には失格になってしまう。

進役を務めるのは、アイドルグループ・嵐のメンバーである二宮和也さん。恋愛に受け身な姿勢だった彼が成長していくさまを、全11話を通して体現していました。ちよみとのやり取りは、水の口移しなど恥ずかしい部分はあったものの、観ていて幸せな気持ちになりました。

ザ・平成ドラマの限界

今回の映像化はストーリー全体の大まかな流れだけでなく、ちよみと恋敵「野村さん」の対立や、リカちゃん売り場での演出、電話やビデオを使ったちよみと家族のやり取り、ちよみと南くんのデュエットなど、高橋版と類似する点が多く見受けられます。

脚本を執筆したのは、『Doctor-X 外科医・大門未知子』シリーズをはじめ、2024年現在も第一線で活躍し続ける脚本家・中園ミホさん。「原作が大好きなあまり、前作は見ていない」と彼女が語った、と言われています(※1)。なのでもしかしたら偶然の一致の部分もあるのかもしれません。

※1:ドラマは何でも教えてくれる: 南くんの恋人 バックナンバー参照

ちよみは書道部に所属しており、千次たちは彼女が行方不明になった理由を、中国への書道留学と周囲に説明している。身長にも近い大きさの筆を使って書道に励む姿が可愛いらしいのもさることながら、「書」が彼女が生きている証明になっており、物語のモチーフとしても素晴らしい。

とても日本らしいモチーフである書道は、高橋版が醸し出すアメリカ映画を彷彿とさせる洋風な雰囲気とは対照的。また現代から振り返ると、2000年代日本っぽい空気感が漂う「ザ・平成」のテレビドラマといった印象を抱きました。

特に商店街という舞台設定は象徴的に思いました。進の家はパン屋「ミナミベーカリー」を営み、ちよみの家は寿司屋「堀切鮨」を営むため、同級生や先生が互いの家を頻繁に訪れる。進が妹の桜に行動を誤解され、その噂が大きな騒動へと発展してしまうあたりからも、物語世界の狭さが伝わってきます。

騒動になる要因の一人が、進の父・謙一。長男である進に厳しく接し、理由も聞かずに彼が悪いと決めつけて怒る。第1話での駅伝では、自身のせいで食中毒になったにも関わらず、失格になった彼に怒鳴っていた。直情的に行動する心配性の父の存在は、進からすれば彼女との関係を阻む障壁でしかありません。

加えて進の邪魔をしていたのが、ちよみの亡き母・真理子の従兄弟である日下部征一郎。彼は15年にわたり、真理子への片想いを引き摺っている。石橋奈美さん演じる同僚の坂井真澄が積極的に彼にアプローチしているが、想いは届かない。その諦めない一途な様子が観ていて辛かったです。

ちよみの担任にして駅伝部の顧問でもある日下部は、進に対して高圧的で、卒業後も陸上を続けるよう薦めていた。ただし個人的には、万年補欠だった進には別の進路を提案するべき、と考えていました。そのためエピローグも含め、彼の進路に関する話には最後まで納得できませんでした。

両者とも自身が学生時代に成し得なかったことを進に押し付けていて、とても不快に感じられた2人。彼らに嫌悪感を抱いたのは、謙一役の西村雅彦さんと日下部役の田辺誠一さんの力演あってこそに違いありません。

こうした登場人物がいる中で、名取裕子さん演じる進の母・竹子だけは圧倒的な包容力で周囲を優しく包み込む。撮影した写真を見てちよみの真実を知るも周囲には言わず、夫とは対照的に物事の芯を見抜く全知全能ぶりが随所に見受けられ、彼女が画面に出てくると安心しました。

悲劇的な結末からの脱却

全編を通して印象に残ったのが、進に想いを寄せるクラスメイトの「野村さん」こと野村麗花です。ちよみとは正反対の才色兼備で大人びた彼女を、宮地真緒さんが見事に演じていました。彼女が登場すると高頻度で流れる妖艶なBGMは、毎話の楽しみでした。

医大生の元カレに付き纏われていたり、家族からの愛情に飢えていたり、危うさや寂しさを抱えている麗花。そんな彼女が自身の妊娠を疑う一連の件は、今作オリジナルでありながら、原作漫画の生々しい雰囲気を想起させる展開でした。

仮病を使って南家に泊まった彼女は、様々な証拠を繋ぎ合わせ、ちよみの正体に辿り着く。第9話での2人の直接対決は、高橋版と同じく麗花の言い分が正論で気持ち良かったです。追試を控える進に勉強を教えるなど、所々で垣間見える純粋な優しさも相まって好感が持てました。

石井智也さんが体現していた進の最高の親友・大原幸作も良いキャラでした。最終的に登場人物全員が主人公2人を応援するようになるので、終盤になるほど盛り上がっていきます。とはいえ全員が恋愛至上主義であり、これもまた平成ドラマの限界のように思えました。

コメディ的には面白いものの、大まかな流れが似ている高橋版のストーリーを知っているとあまりハラハラしません。漫画から話を大幅に膨らませつつ、悲劇的な結末をドラマティックなものへと昇華させた前作。そのイメージが強い中でのリメイクなので、比べられるのは仕方ないでしょう。

そんな中、このドラマの最大のオリジナリティと言えるのが、北村総一朗さん演じる千次でした。昔ながらの頑固おやじで、第一印象は最悪。しかし彼は、駆け落ちした娘・真理子のことでトラウマを抱えていた。この物語は、そんな彼がちよみや進に対し、徐々に心を開いていく話でもありました。

高橋版では、ちよみとその家族は再会が叶わぬまま、永遠の別れを迎えてしまいました。本作に関しても、千次の心臓病が中盤で明かされ、似たような悲劇的なラストを予感させます。だからこそ小さいままのちよみと千次が再会した第10話には感動しました。

物語終盤の鍵になるのは、ちよみが幼少期に訪れた「月下の泉」。第1話でフォーチュンクッキーをサービスした中華料理屋は関係ありませんでした。「女の髪の毛には大龍も繋がる」という占い結果は、最終話後の進との関係を示唆したものに過ぎなかったのです。

この占いが示していた通り、原作漫画と高橋版とは異なり、主人公・ちよみは最後まで生き続けます。小さくなった原因を描かなかったり、元の姿に戻らなかったり、といった原作の要素を踏襲しつつも、主人公2人を幸せに導いた結末。これが非常に画期的で、嬉しかったです。

ただし千次が亡くなってしまう点を含め、完全なハッピーエンドではありません。あらゆる現実的な問題をぶん投げたラストでもあります。ですが小さい姿のまま進と生活を続けるちよみの幸せそうな表情を見ていると、そもそも現実離れしている彼らの物語としては、納得いく幕引きに感じられました。

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最後に

2025年放送予定のNHK連続テレビ小説『あんぱん』を待ちながら、テレビ朝日系列で放送中の最新映像化作品『南くんが恋人!?』と合わせて、こちらもぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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