『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』感想:変容と栄光の歴史

(C)2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会

結成11周年を迎えたアイドルグループの歴史の一部。

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作品情報

アイドルグループ・乃木坂46に密着したドキュメンタリー映画第2作。メンバーの卒業と加入を繰り返しながら成長しつづけるグループを、一年以上にわたる密着映像とともに明らかにする。監督は、CMやドキュメンタリーを数多く手掛ける岩下力。

出演: 乃木坂46 ほか
監督: 岩下力
公開: 2019/07/05
上映時間: 120分

あらすじ

結成から7年を迎えた2018年9月。22枚目となるシングルの選抜発表の場で、エース西野七瀬の口から自身の卒業が明かされた。いつまでも変わらないと信じていた、しかしいつか失ってしまうとわかっていた、戸惑うメンバーたち。今や自らの予想をはるかに超える人気を獲得し巨大化したアイドルグループ、乃木坂46。その“うねり”の中にいる自分は、はたして何者なのだろうか?
グループの活動と個人の活動との両立に満身創痍になりながらも、卒業の二文字を決して口に出そうとしない者。メンバーと過ごす居心地の良さだけが、卒業しない理由だと語る者。過去から逃げるようにグループへ入り、そして今、再び過去の自分と向き合うことを決心する者……。
エースの卒業をきっかけに自分探しの旅に出る少女たちの心の葛藤と成長をこれまでにない親密な距離感で、物語はつむがれていく。

映画『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』公式サイトより引用
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レビュー

このレビューは『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

坂の先にある到達点

「ある日、仕事が舞い込んできた。乃木坂46のことは名前しか知らなかった。」

乃木坂46のドキュメンタリー映画第2作は、こんなテロップから幕を開けます。監督を務めるのは、『BEHIND THE STAGE IN 4TH YEAR BIRTHDAY LIVE』(2017)などの乃木坂46作品に携わってきた岩下力さん。その縁があっての起用と思われますが、パーソナルな部分は知らなかったのだそう。

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またテロップは、次のように続きます。

「アイドルドキュメンタリーの真骨頂は、少女の成長譚。一般の少女がスターを目指す道のりに、最大のドラマがある。出会ったのはすでにスターになってしまった、プロフェッショナル集団。すべてがうまくいっている、ように見える。」

1作目である『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』(2015)は、紛れもなく少女の成長譚として作られていました。何者でもなかった少女たちが、オーディションに合格したことで生活が一変し、アイドルとして成長を遂げる様子が描かれます。

前作からおよそ4年が経過し、その間に乃木坂46はいくつもの栄光を手にしました。2015年に『君の名は希望』でNHK紅白歌合戦に初出場。2017年には『インフルエンサー』で日本レコード大賞を受賞。人気と知名度は飛躍的に上昇し、トップアイドルとしての地位を確立しました。

2014年時点では叶わなかった紅白出場や、海外単独公演の開催といった輝かしい光景が、このドキュメンタリーには映し出されていました。そのため2作品を続けて鑑賞すると、坂を上り続けるメンバーとグループの成長が明確に分かり、心を打たれます。

メンバーの卒業と加入や、初の海外公演といった、グループにとって激動の2018年を中心とした本作。監督自ら撮影した映像を中心にしながら、一人ひとりへのインタビューがテンポよく切り替わります。

グループ全体のイベントに焦点があたっているため、メンバー間の関係性や、チームとしての乃木坂46が前作より多く見られます。中でも、3日間で計18万人を動員した『乃木坂46 6th YEAR BIRTHDAY LIVE』(2018)や、中国で開催された『中日青年友好公益ライブイベント』(2018)など、ライブでのプロフェッショナルな姿勢が見られるのが特徴的。

特に印象的なのが、2018年の年末の歌番組で披露する『シンクロニシティ』です。日本レコード大賞当日、自主練から全体練習にいたるまで、何時間にもわたる練習風景をカメラは捉えていました。数分間の華やかなステージに隠された努力には、尊敬の念を抱きました。

そして『乃木坂46 7th YEAR BIRTHDAY LIVE』(2019)での生田さんには、ただただ圧倒されました。ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』との兼ね合いで、彼女はライブ初日を欠席します。両舞台の開幕が重なりキャパオーバー寸前になりながら、どちらも手を抜かず準備する姿は、まさに「鉄人」でした。

アイドルからの卒業

活動の幅が多岐にわたる乃木坂46。その活動の全ては、2時間では拾いきれません。この映画は、中心メンバーの一人である西野七瀬さんの卒業を主軸としています。他にも齋藤飛鳥さん、与田祐希さん、生田絵梨花さんをメインに取り上げつつ、全10章で構成されています。

西野さんが卒業する頃は、若月佑美さんや能條愛未さん、川後陽菜さんといった1期生の卒業が相次いでいました。グループは一つの転換期を迎えていたと言えます。

作中の『乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展』(2019)の場面では、既に卒業したメンバーたちのライブ映像が差し込まれます。こういった卒業生がいたからこそ、今の乃木坂があるのか、と感慨深くなる演出でした。

アイドルグループ特有の文化である「卒業」。舞台やモデル活動のような個人での仕事が、その決断の引き金になるのかもしれません。秋元真夏さんは笑い交じりに、その文化に疑問を呈していました。同じ未来を見ているとは限らない。その現実に対する寂しさが、彼女の言葉から滲み出ていました。

前作では描かれなかった卒業と同様に、今作は新たにグループに加入した3期生と4期生が登場します。インタビューを受けた3期生たちは、先輩の卒業への不安を、口々に語っていました。

後輩メンバーの中でもフォーカスされているのが、卒業を知ったときに号泣するほど西野さんと親しかった与田さん。実家で祖母がスクラップしている雑誌を見て、隠れながら涙を流すさまは美しく、アイドルという仕事に対する覚悟を物語っているように感じられました。

与田さんだけでなくメンバーの多くは、たびたび涙を流しています。喜びの涙のときもあれば、悲しみの涙ときもある。そんな彼女たちの表情から、背負っているものの大きさを実感させられました。

加入間もなくしてフロントを任された3人をはじめ、この映画に出てくる4期生は常に緊張していました。彼女たちを支えていたのは、舞台上で手を差し伸べた衛藤美彩さんや、舞台裏から自己紹介を見守っていた先輩たちです。このドキュメンタリーは、そういった乃木坂ならではの上下の関係性が色濃く描かれていました。

映画序盤では『NOGIZAKA46 Live in Shanghai 2018』と『乃木坂46 4期生お見立て会』という、2つのイベントが交互に映し出されます。多くのステージを経験したスター集団と、デビュー間もない少女たち。そのコントラストが、4期生の今後の成長を想起させます。

グループ内外の変化

上述した内容からも明らかなように、この映画は1作目とは全く異なる見せ方をしています。その大きな要因として挙げられるのが、4年間での乃木坂46に対するイメージの変化と、アイドルに対する世間一般の見方の変化です。

前者は、いわゆる「乃木坂らしさ」と称されるオリジナリティの確立です。AKB48の公式ライバルを前面に打ち出していた初期は、48グループと同様に、メンバー間の競争を煽る運営手法をとっていました。しかしそこから徐々にイメージの脱却を図っており、やがて乃木坂46独自のイメージを確立するにいたりました。

久保史緒里さんは、グループの魅力を「期も年齢も越えた仲の良さ」「メンバー一人ひとりの個性が活かせる環境」「乃木坂だけのオリジナリティ」と別媒体で語っています(※1)。

※1:2021/12/13放送『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』参照

メンバーの仲の良さは、今回の作中でも取り上げられています。異様なまでにひっつく習性の裏には、安心感があるのだそう。年越しの瞬間に、手を繋いで一斉にジャンプする恒例行事が象徴的でした。

また久保さんは、乃木坂だけのオリジナリティについて「長い丈のスカートが特徴的な衣装」「しなやかな振り付け」「ピアノ曲」を挙げていました(※1)。グループの試行錯誤の果てに生まれた、こうしたオリジナリティこそが、彼女たちをより大きく飛躍させるきっかけとなったのでしょう。

後者に関しては、アイドルの恋愛に対する価値観が、その代表的なものです。アイドルは恋愛禁止か否か。そういった議論は、彼女たちあるいは彼らに、古くから付き纏っています。2010年代前半、AKB48メンバーの恋愛報道が相次ぎました。それに対しての「処罰」や行き過ぎた「贖罪」の異質さは、この論争を加熱させるには十分でした。

それ以降「アイドルにもプライベートがある」といったスタンスの、一線を引いたファンの数が増えたと、個人的には思います。それと呼応するかのように、2018年付近にも乃木坂46メンバーの恋愛報道はあったにも関わらず、本作ではそのような「闇」は一切取り上げられていませんでした。

このように1作目の特徴である残酷さは削ぎ落とされているので、それと似た内容を期待して鑑賞すると、肩透かしを食らうかもしれません。むしろあえて作品の雰囲気を大きく変えるために、岩下さんが監督に起用されたのだと思われます。

というのも、監督自身がこの映画のために撮影した映像が作品のメインとなっています。メンバーと監督の対話が多く映し出されており、岩下監督の気配がハッキリと感じられる作品です。

長期間の密着ゆえに、彼女たちが監督につい本音を漏らしてしまう場面があるのは、ドキュメンタリー映画ならではの見所。しかしながらドキュメンタリーよりは、監督のエッセイを見ているような感覚に陥りました。前作の徹底した客観的視点とは対照的なので、好みが分かれるのではないでしょうか。

特に好き嫌いが分かれそうなのが、本編の随所に挟み込まれるクラシック選曲。グループの歴史のドラマティック性を強調するかのように、壮大なクラシックが用いられています。個人的には映像から浮いているよう感じました。

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最後に

トップアイドルの活動の裏側を垣間見れる作品。作風の異なる1作目とセットで、ぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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