ありそうでなかったジャンルの組み合わせ。
作品情報
2017年に製作されたブラムハウス・プロダクションズによるホラーコメディ。自身の死を引き金に同じ一日が繰り返される悪夢のタイムループを描く。『パラノーマル・アクティビティ』シリーズのクリストファー・B・ランドンが監督を務め、アメコミ作家でもあるスコット・ロブデルが脚本を担当する。
原題: Happy Death Day
出演: ジェシカ・ローテ / イズラエル・ブルサード ほか
監督: クリストファー・B・ランドン
脚本: スコット・ロブデル
日本公開: 2019/06/28
上映時間: 96分
あらすじ
主人公、女子大生のツリー(ジェシカ・ロース 『ラ・ラ・ランド』)は自己チューで、世界は自分ひとりのために回っていると思っている、高飛車でビッチなタイプ。誕生日の朝、たぶん泥酔した勢いついでに、「やらかして」しまったと思われる、男子寮に暮らす見知らぬ男のベッドでぼんやりと目を覚ます。だが彼女はすぐに今日は何かがいつもと違うことに気づき、また何もかもがすでに経験しているように感じるのだった。
Universal Pictures Japanより引用
レビュー
このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
タイムループ×ホラー
同じ時間を何度も繰り返す=タイムループを題材としたこの映画。タイムループをテーマにした作品は、映画や小説など既にたくさん世の中に溢れています。細田守監督版『時をかける少女』(2006)や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)をはじめとして、枚挙にいとまがありません。
そんな中でも特筆すべきは、『恋はデジャ・ブ』(1993)。近年ではブロードウェイでミュージカル化もされている名作です。『ハッピー・デス・デイ』では、台詞の中にこのタイトルが登場しており、今作に影響を与えているのは明らか。同じ一日を繰り返すなど、いくつも共通点が見受けられます。
ここまで挙げた作品からも分かるように、タイムループものは、いくつかストーリーの「型」があります。言い換えれば、「お決まり」の展開が存在するジャンル。SF要素の濃度の差はあれど、物語的には似ている箇所が多く見られるのです。
まず序盤では、既に経験している時間を何度も繰り返す非現実体験の楽しさを描きます。犯罪や強盗、ワンナイトラブ、はたまた相手の趣味嗜好を完全に把握したうえでのデート。こういった普段であれば絶対にしない・できないような行為の背徳感を、『恋はデジャ・ブ』では描いています。
ただしそのままの状態では、大変な事態になることを知った主人公が、ループから脱出する手段を探すのが中盤の展開。『恋はデジャ・ブ』では、どんなに素敵な日を過ごしたとしても、翌日になったらリセットされてしまう切なさ、そして明日が永遠にやってこない苦しみを痛感させられます。
最終的には、この奇妙な経験を通して主人公が人間的に成長を遂げ、幕を閉じます。上述したように、既に作られた型があるタイムループもの。本作の特徴なのは、そこにホラーという別のジャンルを盛り込んでいる点です。これまで作られていたようで、実はほとんど無かった斬新な組み合わせに思いました。
ホラー映画にも、古くからの伝統的な「お約束」的な要素がいくつもあります。主人公は「何の変哲もない」人格者に設定されているのが基本。物語内で殺人鬼がたくさんの人を殺めていくわけですが、主人公は終盤までそのターゲットにされません。
逆に言えば、性格が悪い人物や、不用意に出しゃばる人物は、早々に殺人鬼のターゲットにされて退場します。悪者が因果応報的に殺害されるのがホラーもののお決まりであり、その様子を見た観客の多くはスカッとするでしょう。
話のお約束が存在する二つのジャンルを組み合わせた『ハッピー・デス・デイ』。時に型どおりの展開を、また時には型破りな展開を見せてくれるため、最後まで観客を飽きさせないストーリーに仕上がっています。
ホラー×コメディ
女子大生のツリーは、誕生日の朝、見知らぬ男の部屋で目を覚ます。前日に飲みすぎたため記憶がうろ覚えながらも、講義に出席したり、夜には友人とパーティに行ったり。彼女の「ビッチ」な一日が描かれるところから全てが始まる。
この日の夜、何者かに殺害されたツリーが目を覚ますと、再び誕生日の朝に戻っていた。彼女はこのループから抜け出すために、犯人探しに奔走する。同じジャンルの他作品と同様に、今作でもタイムループのギミックそのものの面白さが、序盤の演出から伝わってきます。
奇抜な色に髪を染める。一糸まとわぬ姿でキャンパス内を闊歩する。そういった悪い事をしたとしても、明日にはリセットされるから関係ない。自由ゆえの常軌を逸した行動の数々に、この体験がいかに楽しいものかが表されています。
スプリンクラーやクラクション、温暖化防止の署名運動といった、日常の何気ない瞬間の一つ一つにも注目していただきたい。これらの描写が何の変化もなく、何度も出てくることで、日常の異常性を表現しています。そして日常を繰り返していくにつれ、それらがどのように変化していくのか。非日常を体験できる気持ちいい演出でした。
加えて、一日の中で殺人犯がいつ襲ってくるか分からない。このスリリングさが終盤まで持続しており、ホラー的要素もきっちりと盛り込まれています。
第一、ツリー殺害を狙う犯人が被っているお面が、シンプルに怖い。大学のマスコット・ベビーを模したお面なのですが、ポップなデザインすぎて逆に恐怖を覚えるマスコットです。『チャイルド・プレイ』シリーズのチャッキーの系譜を受け継いでいるようでした。
犯人以外もこのお面を着用しているため、誰が本物なのか分からないハラハラも感じられます。ループ2回目は、かろうじて前回の殺人は回避できたものの、その後に辿り着いたパーティ会場で殺されてしまう。ループを確信した3回目は、自分の部屋から出ないように試みるも、結局やられてしまう。
前日に初めて出会ったカーターのアイデアで、死に続けることで犯人捜しをするツリー。しかし正体の特定にはいたらず、絶望に包まれる。ストーリー自体は怖いですが、全体的にコミカルなテイストで進んでいくため、過剰なグロやシリアスにはならずに軽快に見続けられるのがポイントです。
個人的にはツリーが朝起きるときのリアクションが毎回異なっており、その豊富なバリエーションがツボでした。
アメリカでの劇場公開時のレイティングは、PG-13。それほどホラーが得意ではない私でも、安心して鑑賞できる作品でした。逆に言うとハードなホラー好きからすれば、少し物足りない出来かもしれません。
といったように肩の力を抜いて楽しめるのが、大きな魅力でしょう。本編が始まる前に映し出されるユニバーサル・ピクチャーズのロゴからも、製作側の遊び心が見られます。その映像に始まりポップなアニメーションのエンドロールで終わる作りに代表されるように、全体的に明るい雰囲気なのも新鮮に映りました。
不良更生譚
ツリーは常に周囲を見下している自己中心的な性格でした。寮の友人のあいさつは一方的に無視。同居人から誕生日にもらったカップケーキは、本人の目の前でゴミ箱へシュート。はたから見て、積極的に関わりたくない性格の主人公です。
また、誕生日前日に飲みすぎての「やらかし」もさることながら、妻帯者である大学教授と不倫関係にあります。奔放な恋愛をしている彼女は、敵を作りやすい人物と言えます。
こういった「良くない」人は、一般的なホラー映画では、因果応報的に殺害される傾向にあります。「何の変哲もない」主人公を設定するホラー映画の定石からは外れています。ただし犯人に真っ先に狙われるターゲットという意味では、定石通りとも考えられます。
タイムループを通して、ツリーの性格は改善していきます。死を繰り返すことで、表面上では見えなかった他人の真意を知った彼女。ループは無限ではなく、いつかは本当の死を迎える事実を知ります。そして今までの自分の行いを反省し、周囲に対して思いやりと優しさをもって接するのでした。
印象的なのは、頑なに出てこなかった父親の電話に出て、実際に会う場面。このシーンで犯人を捕まえてループから脱出する決意を固めます。
連続殺人鬼を倒して終わりと思われましたが、それでもループは終わらず。同居人である黒幕のロリとの直接対決が、クライマックスで描かれます。ツリーの素行の悪さを良く思っていなかったため、ロリはツリーを殺害しようとしていました。
ツリーが住んでいる女子寮は、いわゆる意識高い系女子の集まり。「カッパ会」と名付けられており、そこに属する人は体型維持のために炭水化物を忌み嫌い、健康を気にした生活を日々心がけています。
作品の舞台となる日にはカッパ会のミーティングがあります。そこにメンバーの一人であるベッキーがココアを持参してきました。リーダーのダニエルをはじめとしたメンバーたちに、白い目で見られるベッキー。
彼女に向けられた侮蔑的な視線に対する救いと逆襲が、終盤に用意されており、観ていてとても気持ち良かったです。エピローグのある演出しかり、意識高い系女子を俯瞰した目線で描いている点に好感が持てました。人間関係を深くまで追わずに、スカッと終わる感じも本作に合った結末だと思います。
最後に
見たことあるようで、見たことない。そんな新しさが垣間見える軽快なホラーコメディです。
続編『ハッピー・デス・デイ 2U』(2019)も製作されており、二本あわせて観るのも良し。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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