世の中には嘘だと思いたい真実が存在します。私はまだその現実を受け入れ切れていません。現実と向かい合うためにも、急ピッチで再放送で予習して観に行った映画が今回扱う作品です。
作品情報
2018年に放送された『コンフィデンスマンJP』の劇場版2作目。マレーシアのランカウイ島を舞台に、世界的大富豪の遺産をめぐった騙し合いが繰り広げられる。主人公の詐欺師ダー子、ボクちゃん、リチャードを演じるのは、長澤まさみ、東出昌大、小日向文世。今作ではビビアン・スー、柴田恭兵、北大路欣也ほか豪華俳優が共演する。
出演: 長澤まさみ / 東出昌大 / 小日向文世 ほか
監督: 田中亮
脚本: 古沢良太
公開: 2020/07/23
上映時間: 124分
あらすじ
世界有数の大富豪フウ家の当主レイモンドが他界した。10兆円とも言われる遺産をめぐりブリジット、クリストファー、アンドリューの3姉弟が火花を散らすが、執事トニーが相続人として発表したのは、誰もその存在を知らない隠し子ミシェルだった。世界中からミシェルを名乗る詐欺師たちが“伝説の島”ランカウイ島に集結する中、ダー子、ボクちゃん、リチャードの3人もフウ家に入り込み、華麗かつ大胆にコンゲームを仕かけるが……。
コンフィデンスマンJP プリンセス編 : 作品情報 – 映画.comより引用
レビュー
このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
脚本の特殊性
先日行われた本作の舞台挨拶で、劇場版3作目の製作が発表されました。それほどまでに人気になった『コンフィデンスマンJP』シリーズですが、このドラマ自体がフジテレビの肝いりの企画だったと思います。第1話「ゴッドファーザー編」では、素人目に見ても美術やセットにお金がかかっていることが分かります。毎週出演するゲスト俳優を見ても力の入れようが伺えます。なので、この作品はヒットするべくしてヒットしたという印象があります。
コンフィデンスマン(=信用詐欺師)が仕掛ける騙し合い「コンゲーム」が一話完結で描かれます。作品の醍醐味は、ずばり「どんでん返し」にあります。詐欺師の主人公3人がいかに逆転していくのかを明らかにする終盤は、ターゲットが騙される感覚を視聴者も追体験することができます。「実はこうでした」と、後出しで物語の真相が明らかになっていくのが最大の特徴。
多くの登場人物の物語が交錯していく様子や、嘘を題材にしている点といえば、古沢良太さんが脚本した『エイプリルフールズ』(2015)と似ています。『コンフィデンスマンJP』シリーズについて、伏線回収が上手いという評価をたびたび耳にします。しかし、これは『エイプリルフールズ』に関しても言えることですが、私はその意見に完全には同意できないです。伏線とは、後の展開を前もって暗示しておく手法のこと。ある登場人物の何気ない言動には、実はこういう意図がありました、という展開に対する納得感が伏線回収にとって重要です。前半に描かれる伏線場面の違和感の無さに「あれが伏線だったのか」と気持ち良さを感じる人も少なくないと思います。
しかし古沢さんの「伏線」は、描写されたときに違和感を抱くものが多いです。今作「プリンセス編」においても、デヴィ夫人のブローチを長めの尺で映すカットがありますが、「これが後に重要なアイテムになるんだろうな」ということは分かります。おにぎりの具で言い合うダー子とボクちゃんの会話も絶対怪しいじゃないですか。そういった見え透いた演出に、しらける人もいると思います。しかしながらこのシリーズは、むしろこういった分かりやすく描写された伏線が「どのように繋がっていくか」に重きを置いています。こういった特殊な伏線にノれるかノれないかで、これらの作品の評価や好き嫌いが分かれることは間違いありません。
私自身は今回の映画公開時に再放送された過去作から入った完全な新規です。次回はどんな仕掛けをしてくるのか気になるような魅力的なキャラクターに惹かれました。伏線がどのように繋がっていくか、つまり詐欺師たちがどのような仕掛けを用意しているのか予想して見てしまいます。ダー子たちが拳銃で撃たれたりナイフで刺されたりしても、絶対死んでいないことを確信できる。そういったある種の安心感も、この作品の人気の要因と言えます。
また作品を語るうえで欠かせないのが、このドラマがコメディであるということ。特徴的なのが、台詞の随所に挟み込まれる時事ネタや俳優の「中の人」ネタ。古沢さんの代表作と言えるテレビドラマ『リーガル・ハイ』(2012)で豪快に繰り出されていましたが、その要素を受け継いでいると言えます。今回の劇場版では、長澤まさみさんが出演した『ドラゴン桜』(2005)の件とか、似てない親子の件で出てくる例とか、最高に面白かったです。
1作目を踏襲しつつも趣向を変えた2作目
2019年に公開された1作目『コンフィデンスマンJP ロマンス編』が、今作「プリンセス編」の物語における重要な部分を担っています。偉人の名言の引用に始まり、視聴者側に主人公が語りかけてくるオープニング、そして終盤のどんでん返し。テレビ版からのお約束だったこれらの要素が、ファンであれば当然アがるポイントとして用意されています。この点は2作目にもしっかりと引き継がれており、シリーズ最新作として安心して観ることができます。
それだけでなく過去エピソードのキャスト陣が続々と物語に絡んでくる様子も、前作から受け継がれています。テレビ版、劇場版「ロマンス編」、そしてテレビスペシャル「運勢編」に登場した人物が再登場します。今作は劇場版1作目の「どんでん返し」の後の物語です。すなわち1作目のネタバレががっつりされた後の状態から物語は始まります。本当に物語の冒頭の冒頭からネタバレしてきますよ。なので2作目を観てから初めて1作目を観ても、正直そんなに楽しめないと思います。「ロマンス編」と「運勢編」の人物が、コンゲームの真相に大きく関わってくるため、是非とも前作を観てから今作を観ること強くおすすめします。
そのようにして前作から少し時間が経った話ということで、過去に登場したキャラクターたちの「その後」を見るのも楽しかったです。前作から加わったモナコをはじめとした、コンフィデンスマンたちの様子を観ている感覚は、個人的にMCUシリーズを観ているときと似たものを覚えました。特にアイアンマンのスーツが、知らない間に前の映画からめちゃくちゃハイスペックになっているのを見て驚く感覚に近いです。ここまで述べたような特徴があるため、逆に言うと、一見さんお断り感があるのは否めませんが…
先ほど1作目との共通点をいくつか挙げましたが、今作で一つだけ大きく変わっている点があります。前作の魅力であった、どんでん返しに次ぐどんでん返しの比重は軽くなっています。それは物語の主軸として、騙し合いに加えて、ある登場人物の成長が用意されているからです。
プリンセスストーリー
ある人物とは、ダー子の新しい手下「子猫ちゃん」として登場するコックリ。本作では彼女の成長が丁寧に描かれており、実質的な主人公と言えます。ダー子と出会った頃はまともに言葉も話せず、コックリと頷くことしかできなかった彼女。フゥ家に潜入して様々な人やものと触れるにしたがって、徐々に自身の魅力である純真無垢な様子があらわになります。これは演じている関水渚さん自身の瑞々しさも相乗効果をもたらしていて素晴らしかったです。そして偽りのプリンセスから、真のプリンセスとして生きることを決意します。
コックリは文字通り何も持っていないところから、「偽りのプリンセス」という役割を与えられることで成長し、アイデンティティを実現します。そんな彼女と対照的な位置に配されているのが、フゥ家の三姉弟。ブリジットは性格最悪でわがままな長女。クリストファーは父の事業を追い越さんとする冷徹な長男。そしてアンドリューは遊び惚けている落ちこぼれな次男。
この3人がダー子たちの今回のターゲット「オサカナ」です。ダー子は彼らと共に生活する中で、本当は3人とも跡取りを望んでいないことを察しました。ブリジットは身分など関係なく平凡な人生を送ることを望んでいる。クリストファーは幼い頃から昆虫が好きで、研究に勤しみたいと願っている。アンドリューは男性への愛情を、世間の目を気にして隠してしまうことに悩んでいる。地位や名声を持っていた彼らがそれらを失うことで、アイデンティティの実現が叶えられるのです。個人的にはコックリよりも感情移入して観ていました。彼らが本当にやりたいことを実現するエンディングは、ベタすぎます。ただベタすぎると内心で分かっていても感動しました。
ではなぜ本作で、このような軸が加えられたのでしょうか。テレビシリーズ開始時から主人公たちは既に成長した存在として描かれているため、そもそも彼らに成長の余地はありません。だからこそ一話完結の物語と相性が良かったのですが、劇場版ましてや2作目となるとそういうわけにはいきません。前作でテレビドラマの延長ともいえる、最大規模の騙し合いを展開しました。あくまで推測ですが、おそらく今作でも同じことをやっては駄目だろうと思ったのかもしれません。展開の意外性もさることながら、意外と感動的な話にまとまっていて、本当にナイス判断です!
意外つながりだと、三人が無一文「オケラ」で終わるという結末も印象的です。そしてラストカットで、ダー子のシナリオどおりではなく、レイモンドのシナリオどおりだったことが明かされます。さらにその発端が前作のあの場所であることが判明し、最後まで場面と場面を伏線にして繋げてしまうのかと感銘しました。今までにない展開を含みつつも、ラストまでコンフィデンスマンらしさ溢れる映画でした。
最後に
まだ観たことがない人は、3作目に備えるためにも、コンフィデンスマンの世界にどっぷり浸かってほしいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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